企業概要
事業内容とリスク
株式会社アーバネットコーポレーションは、不動産開発を中心とした企業です。主力事業は「投資用ワンルームマンション」の開発・一棟販売で、特に東京23区内の駅徒歩10分圏という立地にこだわっています。近年は、DINKSやファミリー向けの複合型マンション、テラスハウスや戸建分譲、さらにはホテル開発まで事業領域を広げています。
同社の特徴は「少人数体制+アウトソーシング」による効率的経営です。外観デザインにアートを取り入れるなど、差別化戦略にも力を入れており、投資家や富裕層、法人ニーズに応える商品づくりを行っています。また、2024年には戸建やアパート開発を行うケーナインを子会社化し、収益基盤を強化しました。
一方で、リスクも存在します。不動産業界特有の「景気変動リスク」「金利上昇リスク」に加え、原材料や人件費の高騰、都心の用地取得競争などに直面しています。さらに、有利子負債比率が67.2%と高水準であり、借入依存度が高い点も注視が必要です。また、大地震や豪雨といった自然災害リスク、建築規制の強化による影響も潜在的に存在します。
投資家にとって重要なのは、このリスクを同社がどのように管理しているかです。アーバネットは、用地購入時のハザードマップ確認やリスク分散のための販売先多様化、財務体質強化に向けた資金調達手段の多様化を進めており、不測の事態に備えた経営を意識している点は安心材料といえるでしょう。
今までの業績
直近5期の業績を見ると、売上高は2021年の約210億円から2025年には339億円へと大幅に伸長しています。特に2023年以降は業績が拡大基調にあり、収益力を高めていることが確認できます。
経常利益は安定して2億円台後半を確保しており、当期純利益も毎期約10〜18億円を計上しています。自己資本利益率(ROE)は9〜12%程度と、一定水準を維持しています。これは不動産デベロッパーとして効率的に資本を活用できている証左です。
株主還元にも積極的で、1株当たり配当金は2021年の17円から2025年には22円へと増配傾向にあります。配当性向は50%前後と高めで、利益の半分を株主へ還元している形です。この点は「配当金でFIREを目指す投資家」にとって魅力的なポイントといえるでしょう。
一方、キャッシュフローを見ると営業活動によるCFがマイナスになる期もあり、仕入や開発に先行投資している実態がうかがえます。ただし財務CFでの資金調達によりカバーしており、資金繰り自体は安定的に運営されています。
今後の業績
今後の業績展望としては、引き続き都市型賃貸マンション需要の強さが追い風となります。東京23区では、単身世帯や高齢化による需要拡大、企業の社宅ニーズ、富裕層の相続税対策需要、さらには円安による海外投資家の旺盛な購入意欲が期待されています。加えて、子会社ケーナインによる戸建・テラスハウス分譲事業も収益拡大に寄与する見込みです。
ただし、建設資材や人件費の高騰、都心部の用地価格高止まりにより利益率が圧迫される可能性があります。この点に対し、同社は「販売先の多様化」「差別化された物件設計」「シナジー効果の追求」で対応していく方針を明示しています。
ホテル事業についても、インバウンド需要回復が見込まれる中で、既存の蒲田ホテルの稼働率向上と新規開発による拡大を図っています。特に今後は北海道など首都圏以外の地域で宿泊施設開発を検討しており、収益の柱を増やす動きが見られます。
中長期的には、財務体質の強化と持続的成長に向けた人材投資も進めており、新人事制度や育成施策により組織力を底上げしています。これは長期配当の安定性にもつながると期待できます。
投資家にとって重要なのは、「安定的な配当を維持できるか」です。現状の配当性向やROE水準を踏まえると、同社は今後も堅実に利益還元を続けていく可能性が高いと考えられます。短期的な市況変動により業績が上下することはあり得ますが、長期的な人口動態や投資家需要を背景に、底堅い成長を描く企業といえるでしょう。
業種平均の比較分析
指標比較表
| 指標 | 業種平均(不動産業) | アーバネット | 差異 |
|---|---|---|---|
| 自己資本当期純利益率(ROE, %) | 9.85 | 9.1 | ▲0.75 |
| 総資産経常利益率(%) | 4.43 | 3.0 | ▲1.43 |
| 売上高営業利益率(%) | 12.52 | 約8.0 | ▲4.52 |
| 自己資本比率(%) | 32.42 | 32.5 | +0.08 |
| 配当性向(%) | 32.25 | 49.9 | +17.65 |
| 純資産配当率(%) | 3.07 | 約4.5 | +1.43 |
コメント・詳細分析
1. 自己資本当期純利益率(ROE)
ROEは「株主資本に対してどれだけ効率よく利益を上げているか」を示す指標です。業種平均が9.85%であるのに対し、アーバネットは9.1%とやや下回っています。
この水準は決して低いわけではなく、ほぼ業種水準に近い成果をあげています。しかし、過去数期においてはROEが12%前後を記録した時期もあり、足元の低下は「収益性の圧迫」を示唆しています。要因としては、建設資材の高騰や都心用地取得コストの上昇が利益率に影響していると考えられます。投資家にとっては、ROEの再上昇が今後の重要な注目点となるでしょう。
2. 総資産経常利益率
総資産経常利益率は、会社が保有する総資産を使ってどれだけ利益を生んでいるかを表します。業種平均4.43%に対し、アーバネットは3.0%程度と明確に低い結果です。
背景には、資産規模の拡大(総資産521億円→623億円へ大幅増)に比べて利益の伸びが追いついていないことが挙げられます。不動産業は借入依存度が高い業態であり、アーバネットも有利子負債比率が67%超と高水準にあります。そのため、総資産は増加しているものの、資金調達コストが利益率を押し下げていると考えられます。今後、資産効率を改善できるかが大きな課題です。
3. 売上高営業利益率
営業利益率は、本業の収益性を端的に示す指標です。不動産業平均が12.52%であるのに対し、アーバネットは約8%と大きく下回っています。
これは建築コストや人件費上昇の影響に加え、都市部の用地価格の高止まりが収益を圧迫していることが主因です。加えて、新規子会社(ケーナイン)の統合やホテル事業の運営コストも収益率を下げる要素となっています。投資家の視点では「収益率の低さ」は懸念材料ですが、開発物件の差別化や販売先の多様化によって中長期的に改善が期待されます。
4. 自己資本比率
自己資本比率は財務の健全性を示す指標で、業種平均32.42%に対し、アーバネットは32.5%とほぼ同水準です。
不動産業界は借入依存度が高く、自己資本比率が低めに出る傾向があります。その中で業種平均とほぼ同じ水準を維持している点は「財務体質が安定している」と評価できます。一方で、資金調達における借入依存は避けられず、金利上昇局面では財務リスクが表面化する可能性もあります。したがって、この数値を今後維持・改善できるかが、配当の安定性に直結します。
5. 配当性向
配当性向は「利益のどの程度を配当に回すか」を示す指標です。業種平均32.25%に対して、アーバネットは49.9%と大幅に高い水準です。
株主還元の姿勢が非常に強いことを意味しており、FIREを目指す配当重視の投資家には魅力的です。しかし、利益変動が大きい不動産業において高配当性向を維持し続けることはリスクでもあります。仮に利益が減少した場合、配当の維持が経営の負担になる可能性もあるため、慎重に注視する必要があります。
6. 純資産配当率
純資産配当率は、株主の持分(純資産)に対してどれだけの配当を出しているかを示す指標です。業種平均が3.07%に対し、アーバネットは約4.5%と高い数値を示しています。
これは株主にとって「資産に対して高いリターンを受け取れる」ことを意味します。特に長期保有を前提とする個人投資家にとっては、安定したキャッシュフロー源となる可能性が高く、魅力的な点です。ただし、純資産の増加に対して利益が追いつかないと、将来的に持続可能性に疑問符がつくため、利益成長とバランスを取れるかがカギとなります。
配当方針と今後の展望
配当方針の概要
株式会社アーバネットコーポレーションは、株主還元を経営の重要課題と位置づけています。基本方針としては「親会社株主に帰属する当期純利益から法人税等調整額を排除した数値の40%を配当する」というルールを掲げています。
もっとも、実際の配当は業績や株式数の増加、新規投資などの状況を考慮して調整されることがあります。例えば、当期(第28期)では当初予想21円を上回る 1株あたり22円 の配当を実施し、結果的に配当性向は39.1%となりました。
さらに、翌期についても「1株あたり22円を予定」としており、加えて「増配できるよう努力する」と明言している点が特徴です。この姿勢から、同社は「安定配当をベースに、可能な範囲で増配を目指す」方針を明確にしているといえます。
配当実績と配当関連指標
実際の配当実績を見ると、2025年2月に1株あたり10円、2025年8月に1株あたり12円を支払っており、年間合計で22円となっています。
また、関連指標として以下の点が挙げられます。
- 配当性向:39.1%(2025年6月期連結ベース)
- 中間・期末配当の年2回実施:会社法第459条に基づき、取締役会決議で実施可能
- 内部留保の活用方針:開発不動産の仕入資金など、事業成長と企業価値向上に充当
このように、配当は「株主還元」と「内部留保による成長投資」の両立を目指す形で運用されています。
今後の配当方針の予測
1. 安定配当の維持
アーバネットは長期的に安定配当を最優先としており、今後も 22円程度を下限とする安定配当 が継続される可能性が高いと考えられます。特に株主還元を重視する姿勢を公式に表明しているため、減配リスクは低いと予測されます。
2. 増配の可能性
「増配できるよう努力する」との記載からも、業績次第でさらなる増配の可能性があります。足元ではM&Aによる事業拡大が成功し、売上高が300億円を超えたこともあり、利益成長に応じた増配余地があるとみられます。
3. 内部留保とのバランス
ただし、不動産業は景気や金利に大きく左右される産業です。会社側も「内部留保資金を開発用地仕入に活用」と明記しており、全利益を還元するのではなく、一定割合を成長投資に振り向け続ける姿勢です。これにより、将来的に配当余力をさらに高める循環を作ろうとしています。
4. 配当政策の柔軟性
定款上、取締役会決議で中間・期末配当を行える仕組みを持っているため、機動的な配当対応が可能です。市況や利益状況に応じて迅速に株主還元策を打てる点は投資家にとって安心材料といえるでしょう。
投資家にとっての示唆
- 安定性:40%程度の配当性向を目安とし、利益が出た場合には安定配当を確実に実施する方針。
- 成長性:内部留保を活用して用地取得やM&Aを進め、事業拡大を通じて将来の増配余地を確保。
- 魅力度:業種平均の配当性向(32.25%)より高く、株主還元への意識が強い。
長期的に見ると、アーバネットは「安定配当+成長投資の両立」を目指しており、FIREを狙う配当投資家にとって「安定的なキャッシュフローを得られる銘柄」と位置づけられます。一方で、不動産市況や金利動向による利益変動の影響を受けやすいため、リスク分散を意識したポートフォリオ構築が必要となるでしょう。
長期配当投資評価
レーティング評価:
評価コメント
株式会社アーバネットコーポレーションを「長期投資による長期配当」という観点から評価すると、5段階中「4」としました。その理由は以下の通りです。
まず、同社は株主還元に対する姿勢が非常に明確で、当期純利益の40%を目安とする配当方針を掲げ、実際に2025年6月期も22円の配当を実施しています。配当性向は約40%と、業種平均(32%程度)よりも高く、株主重視の経営を実践している点は大きな評価ポイントです。さらに「増配できるよう努力する」との記載からも、配当の安定性に加え、将来的な増配余地があることがうかがえます。この点は、長期配当を重視する投資家にとって安心材料となります。
次に、同社の財務基盤を見ると、自己資本比率は32.5%と業種平均と同水準で、不動産デベロッパーとしては健全性が維持されています。ただし、有利子負債比率が67%超と高く、借入依存度の高さはリスク要因です。金利上昇局面や景気後退期には利益圧迫が予想されるため、この点は慎重に見極める必要があります。一方で、借入を活用して積極的に開発を進め、M&Aを通じて事業規模を拡大していることは、将来的な利益成長を支える基盤になり得ます。
他の日本株と比較すると、同社の配当利回りや株主還元姿勢は上位に位置します。特に、不動産業界内では平均以上の株主還元率を維持している点が強みです。トヨタやNTTのような大型株の安定配当銘柄に比べると規模や事業の安定性には劣りますが、東証スタンダード市場に上場する中堅不動産会社としては「高配当+成長投資」の両立を図るユニークな存在です。そのため、配当狙いの投資家にとっては魅力的なポートフォリオ候補になるといえます。
ただし、星5つを付与しなかった理由は、景気や金利動向に業績が大きく左右される不動産業特有のリスクと、営業利益率が業種平均を下回っている点にあります。利益率の低さが長期的に続く場合、将来の増配余地が制限される可能性があります。
総合的に見ると、アーバネットは「安定配当を維持しつつ、成長投資で配当余力を拡大していく可能性を持つ企業」であり、長期的な配当収入を狙う投資家に十分推奨できる銘柄です。そのため、レーティングは星4つとしました。

