メディア総研株式会社【9242】の現状と今後を第34期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

メディア総研株式会社(Media Research Institute, Inc.)は、福岡市に本社を置く就職支援・人材育成分野の企業です。1993年の創業以来、「不可能を可能に」という社是と、「イノベーションとイノベーション人材で世界をフラットにする」という理念を掲げ、全国の高等専門学校(高専)や大学を対象に、キャリア支援サービスを展開しています。

主力事業は、全国の高専生を対象とした就職活動イベント「高専生のための仕事研究セミナー」を中心とするキャリア支援事業です。このイベントは、北海道から九州まで全国7地区で開催され、80〜200社規模の企業が出展するなど、学生と企業の接点として非常に高い評価を得ています。また、大学生向けにも「理工系業界研究セミナー」や「理工系女子学生のためのキャリア交流会」など、理系人材に特化した支援を行っています。

同社はまた、WEBメディア「月刊高専」を運営し、全国の高専の教育・研究内容や卒業生の活躍を発信。さらに、キャリア情報サイト「高専プラス」を通じて、学生と企業のマッチングを促進しています。この「高専プラス」では、2026年卒業予定の高専生の約8割が登録するなど、高専就職支援における中核的プラットフォームとなっています。

リスク要因としては、まず「採用市場の変化」が挙げられます。企業の採用意欲が景気に左右される点や、学生の就職活動スケジュールの変化によってイベント開催時期や収益に季節変動が生じることが指摘されています。また、システム障害や個人情報漏えいなど、WEBサービスの拡大に伴う技術的リスクも存在します。これに対し同社は、サーバー増強やセキュリティ監査を実施し、安定稼働体制を整備しています。

さらに、競合他社との差別化を維持するためには、教育機関との強固なネットワークが不可欠です。メディア総研は創業以来、全国の高専教員との信頼関係を築いており、授業の一環としてイベントを開催できる体制を持つ点が強みです。この点が、他社が容易に参入できない参入障壁となっています。

今までの業績

近年の業績は極めて堅調に推移しています。2025年7月期(第34期)の連結売上高は 15億3,668万円(前年同期比約33%増)、経常利益は 2億9,713万円(同約53%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は 2億1,778万円 と過去最高を更新しました。自己資本比率も85.3%と財務健全性は非常に高く、無借金経営を維持しています。

セグメント別では、キャリア支援事業が売上の中心を占めており、主催イベント・受託運営・情報サイトなどが堅調に拡大しました。特に高専生向けイベントの動員数が大幅に増加し、全国的な認知度が向上しています。また、WEBメディア事業では「月刊高専」や「高専プラス」が企業広告や採用支援のハブとして収益を伸ばしています。

2024年5月にはWEB制作会社「株式会社アドウィル」を買収し、法人顧客向けのWEBコンテンツ制作事業を本格化しました。この買収により、企業の採用サイト制作やブランディング支援まで一貫して行える体制が整い、グループ全体のシナジーが生まれています。

配当政策にも変化が見られます。2025年7月期から初の配当を実施予定で、1株当たり20円 の配当を予定しています。配当性向は11.3%と控えめながら、成長企業としては安定した利益還元を開始した点が注目されます。株主総利回り(配当込みTOPIX比)は115.7%と、市場平均を上回るパフォーマンスを維持しています。

人員面では、従業員数が49名から73名に増加し、成長に合わせて人材投資を拡大。平均年齢37歳、平均年収585万円と若手中心ながら一定の報酬水準を確保しています。女性管理職比率は25%で、ダイバーシティ推進にも積極的です。

今後の業績

今後の成長戦略として、同社は2つの柱を掲げています。
一つは、高専キャリア支援の深化と拡張
もう一つは、WEBコンテンツサービス事業の拡大 です。

まずキャリア支援分野では、既存の高専イベントの強化に加え、「高専人材採用プロジェクト」を通じた年間伴走型の採用支援モデルを拡大しています。これは、単発イベントにとどまらず、企業と高専生を年間を通じて結びつける仕組みであり、安定的な収益源として期待されています。加えて、半導体・防衛産業など国家的注目分野に特化した就職セミナーを新設し、時代の需要に即した事業拡張を進めています。

また、買収したアドウィル社のリソースを活用し、WEB制作・採用ブランディング支援などを中堅・製造業向けに提供。採用サイト制作とイベント運営を組み合わせた「クロスセル戦略」によって、企業側の採用活動をトータルで支援する体制を確立しています。この分野は利益率が高く、グループの新たな収益ドライバーとして位置づけられています。

さらに、同社はデジタル化の進展を背景に、「高専プラス」や「WEB合説サイト」といったオンラインプラットフォームを強化。AIを活用したマッチング精度の向上や、動画説明会のライブ配信機能拡充など、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資を継続しています。これにより、地域・学校の枠を超えた効率的な就職支援を実現し、学生・企業双方の満足度向上を狙います。

今後のリスク要因としては、採用市場の変動やシステムトラブル、人材確保の難しさが挙げられます。これに対して同社は、教育機関との提携強化やシステム監視体制の拡充、優秀なIT人材の採用などを通じて安定的な成長を目指しています。また、持続可能な経営の一環として、女性役員比率30%以上を目標に掲げるなど、ESG経営にも注力しています。

総じて、メディア総研は「高専×採用支援×WEB」という独自のポジションで確固たるブランドを築いており、教育機関との信頼関係とデジタル戦略を軸に、安定した成長と配当拡大が期待できる企業です。少子化が進む中でも、採用市場におけるニッチリーダーとして、今後の中長期的な業績拡大が見込まれます。

業種平均の比較分析

指標比較表

指標メディア総研(2025年7月期)業種平均(サービス業)差異(ポイント)
自己資本当期純利益率(ROE)14.9%7.34%+7.56
総資産経常利益率17.3%(※)0.89%+16.41
売上高営業利益率約19.5%(※)5.75%+13.75
自己資本比率88.4%6.68%+81.72
配当性向11.3%41.33%−30.03
純資産配当率1.7%(※)2.37%−0.67

コメント・詳細分析

① 自己資本当期純利益率(ROE)

メディア総研のROEは 14.9% と、業種平均(7.34%)の 約2倍 に達しています。ROEは「株主資本をどれだけ効率的に利益へ転換しているか」を示す指標であり、この値が高いほど経営効率が良いとされます。同社は自己資本比率が非常に高く、財務的に安定していながら高収益を実現している点が特徴です。特に2025年7月期は当期純利益が前期比約40%増と伸びており、資本効率が大きく向上しました。

この背景には、高専生を中心としたキャリア支援分野での独自ポジションがあり、競合が少ない中で安定的な需要を確保している点が挙げられます。ROEの水準から見ると、資本効率の面で中小規模の人材関連企業の中でも非常に優れた経営が行われていると評価できます。

② 総資産経常利益率

総資産経常利益率は、企業全体の資産をどれだけ効率的に使って利益を出しているかを示します。メディア総研は 経常利益3億0,868万円/総資産17億8,260万円 から 約17.3% と算出されます。業種平均0.89%を大幅に上回る水準であり、非常に効率的な資産運用が行われているといえます。

この高い効率性は、在庫を持たないビジネスモデルや軽資産経営によるものです。主力のキャリア支援イベントやWEB制作事業は、人的資本が中心で設備投資負担が少ないため、資産回転率が高くなっています。これは資本集約型産業とは対照的で、教育・人材関連ビジネス特有の強みといえます。

③ 売上高営業利益率

売上高営業利益率は、売上高に占める営業利益の割合で、収益構造の効率性を示します。メディア総研の営業利益率は推計で 約19.5% と、サービス業平均の 5.75% を大幅に上回っています。これは、イベント開催・広告収入・WEB制作といった収益源が高付加価値型であり、コスト構造が軽いことに起因します。

また、高専ネットワークを基盤としたリピート案件の多さや、教育機関からの受託事業の安定性も利益率向上に寄与しています。人的コストの上昇はあるものの、システム開発やオンラインイベント運営の効率化によって収益性を維持している点は注目に値します。

④ 自己資本比率

メディア総研の自己資本比率は 88.4% であり、業種平均(6.68%)をはるかに上回ります。これは極めて健全な財務体質を意味します。一般に50%を超えれば安定企業とされますが、同社は借入依存度が極めて低く、自己資本による運営を維持しています。

この高い自己資本比率は、創業以来の黒字経営の積み重ねと、保守的な財務政策の結果です。さらに、自己資本利益率(ROE)とのバランスが取れており、過剰な内部留保ではなく、利益を成長投資や新規事業(例:WEBサービス拡充)に適切に再投資している点も評価できます。

⑤ 配当性向

2025年7月期から初の配当を実施し、配当性向は11.3% でした。業種平均(41.33%)と比べると控えめですが、これは配当開始初年度である点を踏まえれば妥当な水準です。今後は業績拡大とともに段階的に引き上げる余地があるとみられます。

メディア総研は上場以来、内部留保を優先して事業基盤を強化してきました。高専支援やWEB事業など新規投資が続くため、当面は「成長優先・配当安定」のバランスを取る方針と考えられます。安定したキャッシュフローと高収益体質を背景に、将来的な配当性向の上昇余地は大きいといえます。

⑥ 純資産配当率(DOE)

純資産配当率(DOE)は 約1.7%(20円配当 ÷ 1,278.93円純資産額)と算出されます。業種平均(2.37%)をやや下回る水準です。DOEは企業が株主資本をどれだけ積極的に還元しているかを示す指標であり、同社の配当開始直後の段階では慎重な姿勢が表れています。

ただし、財務余力は十分にあり、自己資本比率が高いため、今後の配当拡充や自社株買いなどの資本政策余地は大きいと見込まれます。今後、成長と株主還元のバランスをどう取るかが注目される局面です。

配当方針と今後の展望

1.有価証券報告書に見る配当方針

2025年10月に提出された第34期有価証券報告書によると、同社は以下のように初の配当を予定しています。

「1株当たり配当額(円):20.00」
※2025年10月23日開催予定の定時株主総会の決議事項

これにより、上場以来初めての配当実施が正式に明記されました。
同社はこれまで、内部留保を重視して成長投資に注力してきましたが、一定の収益基盤を確立したことから、利益還元を開始した形となります。

また、配当性向は11.3% と控えめな水準に設定されており、これは「今後の事業拡大と財務安定性の両立を優先する」方針を示しています。
有価証券報告書には具体的な配当政策の文言として次のような記載があります(要約):

「当社グループは、持続的な成長を目指すとともに、将来の事業拡大のための内部留保の充実を図りつつ、業績の動向を踏まえ安定的な配当を行うことを基本方針とする。」

つまり、配当を“定常的なもの”として位置付ける意図があることが読み取れます。配当開始は単なる一時的施策ではなく、成長段階に合わせた「長期的な株主還元の第一歩」としての意味を持つものです。

2.配当関連指標の現状整理

有価証券報告書の財務データをもとに、配当関連の主要指標を整理すると以下の通りです。

指標数値(2025年7月期)備考
1株当たり配当金20円初の期末配当を予定
配当性向11.3%企業平均より低水準
自己資本比率88.4%非常に健全な財務体質
ROE(自己資本利益率)14.9%高い収益性を維持
純資産配当率(DOE)約1.7%保守的な還元姿勢を反映
1株当たり純資産額1,278.93円自己資本の蓄積が進む

これらの指標から見える特徴は、「高い利益率・安定した財務・慎重な還元」という三つのバランスを取った姿勢です。

とりわけ自己資本比率88.4%は業界内でも群を抜いており、企業の安全性が非常に高いことを意味します。その一方で、配当性向11.3%・DOE1.7%という数値は、株主還元の比率としてはまだ低く、「今後の引き上げ余地」を感じさせます。

3.配当実施の背景にある経営環境

メディア総研がこのタイミングで配当を開始した背景には、事業の成長と安定化が挙げられます。

  • 売上高は過去3年で約1.5倍に拡大(9.5億円 → 15.3億円)
  • 当期純利益は2.1億円と過去最高を更新
  • ROE14.9%で業種平均(7.3%)を大幅に上回る

これらの成果により、内部留保の積み上げが進み、2025年7月期の純資産は約15億7,000万円に達しました。
経常利益率・営業利益率も高く、事業の収益性が安定していることが確認できます。

同社の主力である「高専生向けキャリア支援イベント」や「高専プラス」プラットフォームは、全国58校の高専と連携しており、教育機関からの信頼が厚いことが特徴です。需要の安定性と社会的意義の両面を兼ね備えた事業構造が、安定配当を可能にしています。

4.今後の配当方針の方向性(予測)

ここからは、有価証券報告書の記載と過去の経営実績をもとに、今後の配当方針がどのように推移していくかを予測します。

(1)成長投資と並行した“段階的な配当拡大”

現状の配当性向11.3%は、まだ初期段階の水準です。
今後は、業績拡大に伴い以下のような流れが想定されます。

  1. 配当性向の引き上げ(10〜20% → 20〜30%へ)
    企業としての安定性が増し、利益の成長余地があるため、業界平均に近い水準まで徐々に高めていく可能性があります。
  2. 中期的にDOE(純資産配当率)2〜3%を目指す可能性
    自己資本が厚く、ROEも高いため、自己資本の成長を考慮した安定配当モデルへの移行が予想されます。
  3. 安定配当+成長配当の併用
    同社のビジネスは景気変動の影響が比較的小さいため、業績連動型の「成長配当」を段階的に組み込む可能性があります。

(2)高自己資本比率を活かした株主還元余力

自己資本比率が88%を超える状況は、内部留保が十分であることを示しています。
この余力を背景に、将来的には以下のような資本政策も考えられます。

  • 中期的な配当性向20%台への引き上げ
  • 成熟段階での自社株買いの実施
  • 成長投資と株主還元を両立させる総還元性向(DOE+自社株買い)の導入

現時点で同社は「拡大期」に位置しており、当面は事業投資を優先する方針が続くと見られますが、財務の安定性と利益の持続性を踏まえると、中長期的には還元強化フェーズに移行する可能性が高いと考えられます。

5.業種平均との比較から見た特徴

サービス業全体の平均値(ROE7.34%、配当性向41.33%)と比較すると、メディア総研は以下のような構図になります。

指標メディア総研業種平均コメント
ROE14.9%7.34%利益創出効率が高い
自己資本比率88.4%6.68%借入依存が極めて低い
配当性向11.3%41.3%事業拡大を優先する姿勢
DOE1.7%2.37%今後上昇余地あり

業界平均と比べて、安全性・成長性に優れた“安定成長型企業”といえます。
現在は還元よりも事業拡大に軸足を置いていますが、ROE水準の高さを維持しながら配当を拡充できる財務基盤が整っています。

6.今後の注目ポイント

① 業績連動型配当の導入

高専向けキャリア支援事業の安定収益に加え、WEB制作・ブランディング支援事業の拡大により、収益の多角化が進んでいます。
利益が増加基調にある中、今後は「一定の下限を設けた業績連動型配当」を導入する可能性があります。

② 新規事業への投資と配当のバランス

同社は2024年にWEB制作会社「アドウィル」を子会社化しており、採用サイト・コーポレートサイトの制作を新たな収益源としています。
この事業拡大フェーズが一段落すれば、内部留保を株主還元に振り向ける可能性が高まります。

③ 安定的なキャッシュ・フロー

営業キャッシュフローは前期の約1億2,800万円から今期約2億8,000万円へと倍増しており、手元資金も約13億円に達しています。
この安定した資金流入が今後の配当原資を支える基盤となるでしょう。

長期配当投資評価

レーティング評価:

評価コメント

メディア総研は、上場後間もない新興企業ながら、自己資本比率88%・ROE14.9%・営業利益率19%前後という堅実な財務体質と高収益を両立しており、配当の持続性という観点では非常に強い基盤を持っています。2025年7月期に初めて1株あたり20円の配当を実施予定であり、配当利回りはおおよそ1.3〜1.6%(株価水準により変動)と控えめですが、財務余力を踏まえると、今後の段階的な増配余地が大きい点が魅力です。

一方で、連続増配実績はまだ始まったばかりで、「安定配当企業」としてのトラックレコード(実績期間)は短いのが実情です。配当を重視した長期投資の観点では、“配当を維持・拡大し続けられるかどうか”を今後2〜3年かけて見極めるフェーズにあるといえます。

日本株全体の中で見ると、長期配当を重視する投資家にとって重要な3指標──「配当利回り」「配当持続性」「増配実績」──のうち、メディア総研は以下のように位置づけられます。

評価項目評価コメント
配当利回り★★★☆☆初回配当は控えめだが、今後の業績拡大による引き上げ余地あり。
配当の持続性★★★★★高自己資本比率・無借金経営により、配当維持の財務耐性は非常に高い。
連続増配★★☆☆☆今期が初の配当実施。連続増配の実績はまだないが、方針的には前向き。

総合的に見ると、財務の強さと事業の安定性を背景に、今後「増配型安定配当企業」へ成長する可能性が高いと考えられます。配当性向はまだ11.3%と低く、十分な内部留保を残していることから、将来的な増配余地は大きく、キャッシュフローも潤沢である点は好材料です。

他の成熟企業(例:通信・商社・銀行など)と比べると配当利回り自体は低めですが、成長余力が高い上に、事業が景気に左右されにくい教育・人材支援分野に属しているため、長期安定志向の投資対象としてはバランスが取れています。

したがって、現時点では「高配当株」としてよりも、「今後の成長に伴う配当拡大を見込んだ長期保有向き銘柄」として評価するのが妥当です。数年単位での業績安定と増配実績の積み上げが確認できれば、★5に到達する可能性も十分あります。

(※本評価は投資助言ではなく、公開情報に基づく企業分析の一環として、配当方針や財務体質を説明したものです。)