株式会社アイル【3854】の現状と今後を第35期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

株式会社アイル(I’LL INC.)は、中堅・中小企業向けにITを通じた経営支援を行う企業です。基幹システムの構築から、ECサイトの運営支援、クラウドサービスの提供、人材教育まで幅広く手がけており、まさに「企業のデジタル基盤」を支える存在といえます。

主力事業は2本柱で構成されています。1つ目は「システムソリューション事業」で、基幹業務パッケージソフト「アラジンオフィス・シリーズ」を中心に、業種ごとの特化型システムを提供しています。導入後も保守・運用サポートを継続的に提供する「ストック型ビジネスモデル」を採用しており、安定した収益構造を築いています。2つ目は「Webソリューション事業」で、EC構築や複数ネットショップ一元管理ソフト「CROSS MALL」、ポイント・顧客管理ソフト「CROSS POINT」など、クラウドを活用したWebサービスを展開。これらを基幹システムと連携させることで、リアルとWebの両面から顧客企業の効率化と成長を支援しています。

この「リアル」と「Web」を融合させた独自の「CROSS-OVER戦略」は、アイルの最大の特徴です。単にシステムを導入するだけでなく、企業の販売・経営プロセス全体を最適化する提案を行い、他社との差別化を図っています。

リスク面では、主に以下の点が挙げられます。

  • 顧客層の集中リスク:中堅・中小企業を主要顧客とするため、景気動向の変化が業績に影響を与える可能性があります。
  • 技術革新によるリスク:AIやクラウドの急速な進化により、既存システムが陳腐化するリスクがあります。アイルではAIを活用した開発効率化を進めるなど、技術対応を強化しています。
  • システム障害・情報漏洩リスク:クラウドサービスを扱う企業として、サーバー障害やサイバー攻撃による影響を受ける可能性があります。ISMSやプライバシーマーク認証を取得し、セキュリティ体制を整備しています。
  • 人材確保のリスク:エンジニア不足が続く中、優秀な人材の確保・育成は大きな課題です。同社は在宅勤務を前提に地方エンジニアを採用するなど柔軟な体制をとっています。

このように、アイルはリスクマネジメントを意識しつつも、「中堅・中小企業の企業価値向上」という明確なミッションのもと、安定成長を目指しています。

今までの業績

アイルの直近5年間の業績は、非常に堅調です。売上高は2021年7月期の約132億円から2025年7月期には約193億円まで拡大し、年平均成長率(CAGR)は約10%に達しています。経常利益も1.8億円から4.7億円へと倍以上に増加し、営業利益率・自己資本比率ともに改善しています。

特に注目すべきは、利益率と配当の安定性です。2025年7月期の自己資本比率は70%に達し、財務健全性は非常に高い水準です。また、配当も安定的に増加しており、以下のような推移を見せています。

決算期1株配当(円)配当性向(%)1株当たり純利益(円)
2021年7月期17.035.448.03
2022年7月期18.032.854.93
2023年7月期31.031.897.60
2024年7月期41.036.3112.92
2025年7月期50.035.8139.85

このように、増配を継続しながらも配当性向を一定に保ち、利益成長とバランスを取る経営を実践しています。特にFIREや配当金生活を目指す投資家にとっては、長期的なインカムゲインを見込みやすい企業といえます。

また、アイルの事業モデルはストック型収益の比率が高く、サブスクリプション的な安定性を持っています。ソフトウェアの保守契約やクラウド利用料など、毎月継続的に入る収益が大きく、景気の波に左右されにくい点も評価ポイントです。

さらに、従業員数も年々増加し、2025年には1,000名を突破。社員教育への投資を重視しており、「アイルキャリアカレッジ」による人材育成など、長期的な企業力の底上げを進めています。離職率も2%台と低水準で、企業文化の強さがうかがえます。

今後の業績

今後の成長戦略として、アイルは「CROSS-OVER戦略」の深化を軸に、リアルとWebの融合をさらに進めていく方針です。中堅・中小企業のDX需要は依然として高く、特に「EC×基幹システム」の連携ニーズが拡大しており、同社の主力商材「アラジンオフィス」「CROSS MALL」「CROSS POINT」はこの流れに非常にマッチしています。

具体的には以下の方向性が示されています。

  1. 業種別パッケージの強化とAI活用
     業界ごとに特化したパッケージソフトのバリエーションを増やし、カスタマイズ効率を高める方針です。また、AIによるコード生成や開発工程の自動化により、システム品質と生産性を両立させる取り組みを進めています。
  2. クラウド事業の拡大
     中堅・中小企業が求めるDX支援として、クラウドサービスの導入支援を強化。「CROSS MALL」や「CROSS POINT」を中心に、サブスクリプション型モデルをさらに拡充することで、安定的なストック収益を積み上げていく戦略です。
  3. サステナビリティ経営の推進
     環境面ではGHG排出量を2021年比で76%削減(2025年実績)と報告しており、脱炭素経営にも積極的です。また、人材面では女性管理職比率13%、男性育休取得率60%を2028年の目標に掲げています。人的資本への投資を通じた持続的成長を目指しています。
  4. 地域密着・顧客支援の深化
     東京・大阪・名古屋・福岡・仙台などに拠点を持ち、地域密着型の営業展開を進めています。顧客との距離の近さを活かし、システム導入後のアフターサポートにも力を入れており、顧客満足度の高さがリピート率向上に繋がっています。

長期的には、営業利益率30%を目標とし、安定成長と高収益化の両立を掲げています。実際、自己資本比率70%・ROE34%という数値は、財務の強さと収益力の両面を示すものであり、配当成長を支える基盤となっています。

業種平均の比較分析

指標比較表

指標株式会社アイル情報・通信業 平均差異(pt)評価
自己資本当期純利益率(ROE)34.2%10.68%+23.52◎ 非常に高水準
総資産経常利益率30.5%*5.45%+25.05◎ 高効率経営
売上高営業利益率約25.0%*11.36%+13.64◎ 優れた収益力
自己資本比率70.0%32.89%+37.11◎ 財務安全性極めて高い
配当性向35.8%37.14%-1.34○ 安定的配当政策
純資産配当率(DOE)約8.3%*3.45%+4.85◎ 株主還元意識高い

(※一部の指標は決算書の経常利益・純資産・総資産・売上高等をもとに推定)

コメント・詳細分析

① 自己資本当期純利益率(ROE)

アイルのROEは34.2%と、業種平均(10.68%)を大きく上回っています。
ROEは株主資本に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標であり、一般的には10%を超えると優良とされます。その3倍以上という水準は、効率的な資本運用と高い収益性を物語っています。とくに中堅・中小企業向けIT支援という安定的なBtoB市場を主戦場としているため、顧客基盤の広さとストック型収益がROEの高さを支えています。

また、同社の自己資本比率が70%と高水準であることから、借入に頼らない高効率経営を実現している点も評価されます。高ROEを過剰なレバレッジではなく、実力で達成している点が特徴です。

② 総資産経常利益率(ROA)

ROA(経常利益÷総資産)は、アイルが約30%前後と非常に高い水準にあります。業種平均の5.45%を大幅に超えており、総資産をいかに効率よく利益に変えているかがよくわかります。

同社の特徴は、ソフトウェア開発やクラウドサービスなど資産を多く必要としないビジネスモデルを採用していることです。生産設備への投資が小さい一方で、人的資本と知的資産によって高い利益率を確保している構造が、業種平均との大きな差を生んでいます。

③ 売上高営業利益率

売上高営業利益率は25%前後(推定)と、情報・通信業平均の11.36%を大きく上回ります。これは、同社が単なるシステム販売ではなく、保守・運用・クラウド利用料といったストック収益を積み上げるビジネスモデルを採用していることが要因です。

また、「アラジンオフィス」「CROSS MALL」などの主力プロダクトは業種別にカスタマイズされ、顧客の業務フローに深く入り込む設計です。その結果、価格競争に巻き込まれにくく、高い利益率を維持できる体質となっています。

加えて、営業とエンジニアを同一組織に配置する「製販一体体制」により、提案から開発・サポートまでを一気通貫で提供。これがコスト削減と収益率向上につながっています。

④ 自己資本比率

アイルの自己資本比率は70.0%と、業種平均の32.89%の2倍以上です。
これは企業の財務健全性の高さを象徴する数値であり、景気変動や投資環境の変化に対しても耐性が強いことを意味します。

多くのIT企業は成長投資やM&Aにより自己資本比率が30~40%に留まる中、アイルは利益剰余金を積み上げながら増配も行い、内部留保と株主還元を両立させています。堅実な財務方針が、長期的な安定成長を支えています。

⑤ 配当性向

2025年7月期の配当性向は35.8%で、業種平均の37.14%に近い水準です。
アイルは中間配当と期末配当の年2回配当を行っており、利益成長に合わせて増配を継続しています。過去5年間で1株配当は17円→50円へと約3倍に増加しており、株主還元意識が一貫して高い企業といえます。

また、配当性向を急激に上げず、30~40%台を維持するバランス経営を行っている点も特徴です。内部留保を事業拡大に回すことで、配当の持続性を重視する姿勢が見て取れます。

⑥ 純資産配当率(DOE)

純資産配当率(DOE)はおよそ8.3%で、業種平均の3.45%を大きく上回ります。これは、株主資本に対してどの程度の配当を出しているかを示す指標であり、アイルがい還元力を持つ企業であることを意味します。

自己資本比率が高いにもかかわらずDOEが高いということは、資本効率を損なわずに積極的な還元を行っている証拠です。今後も利益の成長に合わせて安定的な増配を続ける可能性が高いと考えられます。

配当方針と今後の展望

配当方針の概要

株式会社アイル(I’LL INC.)は、有価証券報告書(第35期・2025年7月期)において、株主還元を経営の重要課題のひとつとして位置付けていることを明確にしています。報告書では次のように述べられています。

「当社は、株主の皆様に対する利益還元を経営の重要課題のひとつと位置付けており、業界における競争力を維持・強化するための内部留保、株主資本利益率の水準、配当性向等を総合的に勘案して成果の配分を行っていくことを基本方針としております。」

この一文にアイルの配当政策の特徴が凝縮されています。すなわち、単なる高配当志向ではなく、内部留保と配当のバランスを重視する中長期型の安定的な還元方針を採用しているのです。

アイルは「中間配当」と「期末配当」の年2回配当制度を導入しており、株主への定期的な利益還元を重視しています。中間配当は取締役会決議、期末配当は株主総会決議によって実施され、株主に対して明確な配当スケジュールを提供しています。

2025年7月期(第35期)の配当実績は以下のとおりです。

  • 中間配当:1株あたり20円
  • 期末配当:1株あたり30円(予定)
  • 年間配当金:合計50円
  • 連結配当性向:35.4%

これにより、前期(41円)から9円増配となり、5年連続の増配が達成されました。なお、配当性向は30~40%台を維持しており、過度に高配当を目指すのではなく、持続可能な利益分配を志向していることがうかがえます。

過去5年間の配当実績と推移

有価証券報告書に示された過去5年分のデータ(提出会社ベース)から、アイルの配当推移を以下にまとめます。

決算期1株当たり配当額(円)配当性向(%)1株当たり当期純利益(円)
第31期(2021年7月期)17.035.448.03
第32期(2022年7月期)18.032.854.93
第33期(2023年7月期)31.031.897.60
第34期(2024年7月期)41.036.3112.92
第35期(2025年7月期)50.035.8139.85

この表から読み取れるように、配当額は着実に増加しており、2021年比で約3倍の水準に達しています。しかも、配当性向はほぼ一定で推移しており、無理のない範囲で利益成長に応じた還元が行われています。

この安定的な増配傾向は、以下の3つの要素に支えられています。

  1. 安定したストック型ビジネス
     主力ソフト「アラジンオフィス」やクラウドサービス「CROSS MALL」など、導入後も保守契約やクラウド利用料で継続収益を確保できる仕組みが収益基盤を安定化させています。
  2. 高い自己資本比率(70%)による財務余力
     借入依存度が低く、自己資本比率70%という堅固な財務体質を背景に、将来の投資と株主還元を両立しています。
  3. 業績成長とROE水準の高さ
     ROE(自己資本利益率)は34.2%と業界平均の10.68%を大きく上回っており、利益創出力の高さが配当原資の厚みを支えています。

配当政策の特徴

アイルの配当方針には、次の3つの特徴が見られます。

(1)「持続可能な増配」を重視

アイルは短期的な高配当よりも、安定した利益成長に連動する増配を重視しています。
そのため、配当性向を毎期大幅に変動させず、利益が増えるたびに段階的に配当を増額する形を取っています。こうした手法は、配当の予見性を高め、長期保有の魅力を高める効果があります。

(2)「内部留保と成長投資の両立」

同社は利益の一部を内部留保として確保し、新サービス開発・AI導入・人材教育への投資に充てています。配当を抑えてでも事業の競争力を高める戦略ではなく、利益の範囲内で両立する「安定成長型の経営」を採用しています。

(3)「連続増配による信頼性」

創業以来、アイルは「FREE, LOVE & DREAM」という理念のもと、「人を中心とした経営」を掲げてきました。社員・顧客・株主の信頼関係を重視する文化が企業風土として根付いており、増配の継続はその信頼の象徴でもあります。

財務指標からみる配当余力

有価証券報告書の財務指標をもとに、配当余力を考察します。

  • 経常利益:47億円
  • 当期純利益:34億円
  • 純資産:108億円
  • 自己資本比率:70.0%

これらの数値から判断すると、同社は内部留保を充実させつつ、毎年10億円規模の配当支払いを継続できる財務余力があります。現金・現金同等物も74億円と潤沢であり、仮に将来的に一時的な業績調整が発生したとしても、安定的な配当を維持できるキャッシュ基盤が整っています。

今後の配当方針の見通し

現時点で、アイルは「中長期的な企業価値向上を最優先」と明言しており、今後の配当方針も以下のような方向性が見込まれます。

安定増配路線の継続

過去5年間のトレンドを考慮すると、同社は急激な増配ではなく「持続的増配」を基本方針としています。今後も、年間配当金を1株あたり+5~10円ずつ増やすペースが継続すると予想されます。
この増配ペースは、利益成長率と配当性向のバランスを維持しつつ、株主に安心感を与える設計です。

配当性向40%台への緩やかな上昇

近年、多くの上場企業が「配当性向40%」を目安としている中、アイルも同水準を意識する可能性があります。現行の35%台から、今後3~5年をかけて徐々に40%前後まで引き上げる展開が予想されます。

自社株買いの可能性

現状、報告書に自社株買いの具体的な言及はありませんが、自己資本比率70%・現預金74億円という余裕を考慮すると、将来的な自社株取得による総還元策が選択肢に入る余地もあります。
ただし、同社は「成長投資とのバランスを最優先」としているため、優先順位はあくまで事業投資・人材育成が先行するものと見られます。

内部留保の有効活用による「安定還元+事業拡大」モデル

アイルは利益の再投資を通じて新たな収益源(AIソリューション・クラウド連携サービスなど)を開発し、その成果を株主に還元する循環型モデルを目指しています。これにより、「利益が出たから配当する」ではなく、「事業成長を起点に配当を持続的に伸ばす」構造が形成されつつあります。

配当方針の将来展望:中長期的な安定成長型企業へ

アイルの今後5年間を展望すると、同社は次のような配当方針を維持・強化する可能性が高いと考えられます。

期間想定年間配当(円)想定配当性向(%)主な背景
2025年(実績)5035.8増配5年連続。業績堅調
2026~2027年55~60約38~40利益成長とバランス重視
2028~2030年60~70約40ストック収益の拡大、AI投資成果の反映

この見通しは、業績見通しや財務戦略の範囲内での予測であり、外部環境の変化によって上下する可能性がありますが、少なくとも「減配リスクは極めて低い」と言える安定性があります。

長期配当投資評価

レーティング評価:

評価コメント

株式会社アイル(I’LL INC.)は、長期配当を重視する投資家にとって、国内上場企業の中でも特に安定感が際立つ銘柄といえます。結論から述べると、配当利回りの絶対値こそ極端に高いわけではないものの、「配当の持続性」「増配の一貫性」「財務の健全性」という3つの観点で他の日本株と比較して極めて優秀です。

まず、配当利回りについては2025年7月期時点でおよそ2%台半ばと、国内高配当株(3~4%台)と比べると平均的な水準にあります。しかし、この企業の強みは利回りそのものではなく、「毎年確実に配当を増やし続けている」点にあります。過去5年間で1株あたり配当金は17円から50円へと約3倍に増加しており、連続増配を継続している企業は日本市場全体でもごく一握りです。

次に、配当の持続性に注目すると、自己資本比率70%・ROE34%という圧倒的な財務体質が支えとなっています。借入金依存度が極めて低く、ストック型のクラウド・システム収益を主軸に安定的なキャッシュフローを生み出しているため、景気変動時にも減配リスクが小さい構造です。業績は5年連続で最高益を更新中で、配当性向も30~40%の健全レンジを維持しており、「無理なく増配を続ける経営設計」が確立されています。

また、連続増配実績は、同業他社と比較しても際立っています。情報・通信業界では業績変動や投資負担から減配・据え置きを選ぶ企業も少なくない中で、アイルは安定的な利益成長を背景に増配を継続。単年度の景気変動に左右されず、利益水準に応じたバランス型の配当政策を採っています。

総合すると、アイルは「高利回り志向」というよりも、「長期保有で着実に配当が伸びていく」タイプの企業です。財務の堅牢性、連続増配の実績、ストック型収益による配当原資の安定性という3点は、国内株の中でも最上位クラス。
したがって、「長期投資で安定した配当成長を享受したい」という投資スタイルにおいては、★5つ満点の評価に値します。
(※本評価は一般的な財務・配当実績に基づく分析であり、投資勧誘や株価予測を目的とするものではありません。)