企業概要
事業内容とリスク
株式会社ボルテージは「恋愛と戦いのドラマ」をテーマにしたモバイルコンテンツ事業を中心に展開しています。代表的なサービスは、女性向け恋愛シミュレーションアプリや電子コミック、コンシューマゲーム向け作品であり、スマートフォンやNintendo Switchなどを通じて配信されています。課金モデルは基本無料の従量課金型、もしくはストーリーごとの個別課金型を採用し、多様な顧客層を取り込んでいます。
事業の特徴は以下の通りです。
- モバイルコンテンツ事業
・「100シーンの恋+」「誓いのキスは突然に」など女性向け恋愛アプリ
・「六本木サディスティックナイト」など男性向けタイトル
・電子コミックレーベル「ボル恋comic」「ボル恋TOON」などを展開 - 戦略的方向性
2027年頃までに「アプリ・電子コミック・コンシューマ」の3本柱を確立することを目標としています。
既存の物語アプリにおいては「ファンダム戦略」(ファンコミュニティ強化による収益安定化)、新分野では「ヒットIP戦略」(新規オリジナルIPの創出と拡大)が推進されています。
主なリスク要因
- プラットフォーム依存:GoogleやAppleといった配信プラットフォームの方針変更や手数料率改定が業績に直結する。
- 技術革新と競合:ユーザーの嗜好変化が早いため、開発スピードが遅れるとユーザー離れにつながる。
- システム障害や自然災害:サーバートラブルや災害による配信停止リスク。
- 広告コスト上昇:新規ユーザー獲得のための広告投資負担が収益性を圧迫。
- M&Aや新規事業展開:投資回収が計画通り進まない場合、利益率低下につながる。
- 株式価値の希薄化:新株予約権の発行により株式の希薄化が進む可能性あり(2025年8月時点で発行済株式の約3.3%に相当)。
このように、同社の強みはオリジナルIPを活用した「独自コンテンツ力」ですが、外部環境やプラットフォーム依存度の高さがリスク要因となっています。
今までの業績
ここ数年の売上・利益の推移を見ると、減収傾向に歯止めをかけつつ黒字化への転換を果たしています。
- 売上高の推移
第22期(2021年6月期):69億円 → 第26期(2025年6月期):28億円
この4年間で半分以下に縮小しており、既存の恋愛アプリ市場の成熟化や競争激化が影響しています。 - 利益の推移
・2022年・2023年は赤字決算でしたが、2024年6月期に黒字転換。
・2025年6月期は最終利益1.3億円を確保し、2期連続黒字を達成。 - セグメント別動向
・日本語女性向け:売上166億円(前年19%減)
・英語・アジア女性向け:26億円(前年33%減)
・男性向け:64億円(前年11%減)
・電子コミック・コンシューマ:25億円(前年9%減)
全セグメントで減収傾向にあるものの、コスト削減や広告費圧縮で利益は確保。特に営業利益は前期の赤字から1,458万円の黒字に転じています。
- 財務基盤
・自己資本比率は78.3%と高水準を維持。
・現金同等物は13.2億円と安定的。
・負債規模も小さく、財務的には健全性が高い。 - 配当の状況
直近4期は無配が続いています。過去には1株当たり8円の配当実績がありましたが、業績悪化を受けて停止中です。FIRE投資家にとっては、安定配当復活の有無が最大の関心事となるでしょう。
今後の業績
今後の成長戦略は「収益源の多角化」と「ヒットIP創出」にかかっています。経営陣は2027年頃を目途に3本柱を確立する方針を示しています。
- 既存アプリの収益性改善
・「ファンダム戦略」により、既存ユーザーを囲い込み課金率を高める。
・アプリの進化や新規コンテンツ追加により、ユーザー離れを防ぐ。 - 新規分野の拡大
・電子コミックレーベル「ボル恋TOON」やNintendo Switch向けタイトル展開。
・海外市場(英語・アジア圏)での需要取り込みを目指す。
・ただし市場競争が激しいため、オリジナルIPの育成が不可欠。 - 財務面の強み
・高い自己資本比率と潤沢なキャッシュポジションにより、大規模投資や新規事業への挑戦が可能。
・ただし無配が続いており、株主還元姿勢が弱い点はネガティブ要因。 - 配当復活の可能性
・現在は利益を再投資に回す方針ですが、2期連続黒字により、将来的に配当再開の可能性が見えてきました。
・直近の利益水準では大幅な配当は期待しづらいものの、2027年以降に安定黒字化すれば配当復活の可能性が高いと考えられます。
業種平均の比較分析
指標比較表
| 指標 | ボルテージ(2025年6月期) | 業種平均(情報・通信業) | 差異(ボルテージ-業種平均) |
|---|---|---|---|
| 自己資本当期純利益率(ROE, %) | 0.6 | 10.68 | ▲10.08 |
| 総資産経常利益率(%) | 0.6 | 5.45 | ▲4.85 |
| 売上高営業利益率(%) | 0.5 | 11.36 | ▲10.86 |
| 自己資本比率(%) | 78.3 | 32.89 | +45.41 |
| 配当性向(%) | 0(無配) | 37.14 | ▲37.14 |
| 純資産配当率(%) | 0(無配) | 3.45 | ▲3.45 |
コメント・詳細分析
1. 自己資本当期純利益率(ROE)
ROEは株主資本に対する純利益の割合であり、株主資本をいかに効率よく利益に変えているかを示します。
ボルテージのROEは 0.6% と極めて低く、業種平均10.68%に比べて▲10.08ポイントの差があります。これは、同社が黒字転換を果たしたとはいえ利益水準がまだ低く、株主資本に見合ったリターンを生み出せていないことを意味します。
ROEは投資家にとって最も注目される指標のひとつであり、この水準では「株主資本を十分に活用できていない企業」と評価されかねません。ただし、自己資本比率が高いため「守りは強いが、攻めが弱い」企業構造となっています。
2. 総資産経常利益率
総資産経常利益率は、企業が保有する資産全体をどれだけ効率的に運用して利益を稼いでいるかを示す指標です。
ボルテージは 0.6% と低水準で、業種平均5.45%に比べて▲4.85ポイントの差があります。
資産効率が低い要因としては、売上の減少トレンドと、収益性の低い既存タイトル依存が考えられます。資産の多くはソフトウェアや知的財産権に投じられていますが、それが十分な利益を生み出していないことが課題です。
3. 売上高営業利益率
売上高営業利益率は、本業の収益力を示す重要な指標です。
同社の営業利益率は 0.5% とほぼ利益が出ていない状態で、業種平均11.36%との差は▲10.86ポイントです。
つまり、業種全体が売上の約1割を利益にしているのに対し、ボルテージは「かろうじて黒字を確保」しているレベルです。これは固定費の高さや、広告宣伝費を削減してやっと黒字転換した脆弱な収益構造を反映しています。長期的に配当を期待する投資家にとっては、この営業利益率の低さは最大のリスク要因です。
4. 自己資本比率
自己資本比率は財務健全性を示す指標であり、企業の「倒産しにくさ」を測る目安です。
ボルテージは 78.3% と極めて高水準で、業種平均32.89%を大幅に上回っています(+45.41ポイント)。
これは借入依存度が低く、内部留保が厚いため、資金繰りに余裕があることを意味します。経営が一時的に赤字に転落しても財務基盤が揺らぎにくい点は、投資家にとって安心材料です。特に長期投資を志向するFIRE層にとって「安全性の高さ」は大きな魅力です。
5. 配当性向
配当性向は、当期純利益のうちどれだけを配当に回すかを示す指標です。
ボルテージは 無配(0%) の状態が続いており、業種平均37.14%との差は▲37.14ポイントとなっています。
かつては1株当たり8円の配当実績もありましたが、業績悪化により配当を停止しています。配当を重視する長期投資家にとって、この「無配状態」は非常に厳しい評価につながります。黒字転換を果たしたとはいえ、利益規模が小さいため、近い将来に配当復活する見込みは限定的です。
6. 純資産配当率
純資産配当率は、株主資本に対してどれだけの配当を支払っているかを示します。
ボルテージは無配のため 0% であり、業種平均3.45%との差は▲3.45ポイントです。
配当を継続的に得たい投資家にとって、この差は大きなマイナス要因です。企業が利益を内部留保し将来の成長投資に充てる戦略をとること自体は理解できますが、成熟市場において株主還元が乏しい点は、株価評価の伸び悩みにつながるでしょう。
配当方針と今後の展望
配当政策の基本方針
報告書によれば、同社の配当方針は以下のように明記されています。
- 内部留保の確保と株主還元のバランスを重視
将来の事業拡張や体質強化のために必要な内部留保を確保しつつ、株主への利益還元を両立させることが基本姿勢。 - 配当性向の考慮と安定配当の重視
単年度の利益変動に左右されすぎず、長期的な配当の安定性を重視する。 - 配当実施の方法
期末配当を基本とし、中間配当は定款に基づき可能だが基本は年1回。 - 決定機関
期末配当は株主総会、中間配当は取締役会で決議。
このように「株主還元の意思」を明確にしつつも、足元の業績状況を反映して慎重な姿勢が取られています。
直近の配当実績
有価証券報告書に示された配当実績を見ると、過去5年間で以下の動きが確認できます。
- 2021年(第22期):1株当たり8円の配当を実施。
- 2022年以降(第23期~第26期):無配が続いている。
すなわち、2021年を最後に4期連続で配当を停止しており、株主へのキャッシュ還元はストップした状態です。
配当関連指標
同社の財務・利益水準を示す指標から配当余力を確認します。
- 当期純利益:1.3億円(2025年6月期)
- 営業利益:1.4億円(同上)
- 自己資本比率:78.3%(高水準)
- ROE:0.6%(業種平均10.68%に比べ低水準)
財務基盤は極めて安定している一方で、利益水準が小さく配当余力が限られていることがわかります。
結果として、「配当を出す余力はあるが、利益の成長が伴わないため無配を継続している」というのが実情です。
今後の配当方針予測
ここからは現状と方針を踏まえた将来のシナリオを整理します。
1. 短期的(~2026年)
- 業績は2期連続で黒字を確保しており改善傾向にある。
- しかし利益額は1億円台と小さく、直近では「無配継続」が現実的。
- 内部留保を積み増し、事業投資や新規IP育成に回す可能性が高い。
2. 中期的(2027年前後)
- 経営計画で掲げる「アプリ・電子コミック・コンシューマの3本柱」が安定稼働すれば、営業利益率改善が見込める。
- この時期に「配当復活」の可能性が浮上。過去の実績から考えると1株5~8円程度が想定される。
3. 長期的(2030年以降)
- 利益が安定化すれば「安定配当+余剰資金での自己株式取得」という株主還元策も検討される可能性。
- 成熟市場において成長余地が限定されるため、将来的には配当性向を高める方向にシフトする可能性がある。
投資家への示唆
- FIRE志向の投資家にとって現状は不向き
直近4期無配であり、配当収入目的の投資家にとって魅力は乏しい。 - 財務基盤は盤石
自己資本比率78%超という堅固な財務は、将来の配当復活の下地としては好材料。 - 成長戦略次第
配当復活は「新規ヒット作の創出」「電子コミック事業の収益化」次第。 - シナリオ投資の余地
「短期的には我慢、中期的に配当復活を期待」というスタンスであれば投資妙味はある。
長期配当投資評価
レーティング評価:
評価コメント
株式会社ボルテージを長期投資で「配当収入」を狙う銘柄として評価すると、結論としては ★1(最低評価) とせざるを得ません。理由を以下の観点から整理します。
1. 配当利回り
まず配当利回りの観点では、現状は 0%(無配) です。2021年(第22期)に1株当たり8円の配当実績があったものの、その後4期連続で無配が続いています。日本株の平均配当利回りはおおよそ2%前後、情報・通信業の業種平均では純資産配当率3.45%が示されている中、ボルテージは株主への現金還元がゼロであり、配当投資という観点では競争力が全くありません。
2. 配当の持続性
配当を継続して出せるかどうかは、企業の収益力と財務基盤の両方に依存します。同社は2期連続で黒字を確保し、自己資本比率も78.3%と極めて高い水準を維持している点はポジティブです。しかし、純利益はわずか1.3億円程度と非常に小規模であり、配当原資としては不十分です。仮に配当を再開したとしても、利益規模から見て「減配リスク」が常に存在し、持続性の観点では評価は低くなります。事業の特性上、新規IPのヒットに収益が左右されやすく、安定性に欠ける点もマイナス要因です。
3. 連続増配の有無
日本株の中には、花王や伊藤忠商事、オリックスなど、長期にわたり増配を続けている企業が数多く存在します。こうした企業は「配当成長株」としてFIRE層や長期投資家に支持されています。一方、ボルテージは過去に配当を停止した実績があり、増配どころか「配当復活の目途すら立っていない」状況です。この点で他の日本株と比較すると大きく見劣りし、配当を軸とする投資戦略には不適合と言えます。
4. 総合判断
以上の3つの観点を総合すると、ボルテージは現時点で 長期配当を目的とした投資には向かない銘柄 です。財務の健全性や黒字転換といった前向きな材料はあるものの、配当投資家にとって最も重視される「利回り」「持続性」「増配実績」のすべてで平均以下の評価となります。他の日本株、特に高配当株や増配株と比較すると明らかに投資妙味に欠けるため、配当狙いでの長期投資先としてはおすすめできません。
結論として、ボルテージは「成長期待株」として短期~中期的に値上がり益を狙うなら検討余地がありますが、「配当収入でFIREや長期安定収入を目指す」という目的には全く適しておらず、レーティングは ★1 が妥当です。

