株式会社自重堂【3597】の現状と今後を第65期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

株式会社自重堂は、ユニフォームおよびメンズウェアの企画・製造・販売を行う企業です。国内外のグループ会社を通じて、製造から販売まで一貫して担っており、国内の子会社として「株式会社玄海ソーイング」、販売部門の「株式会社ライオン屋」などがあります。また、中国やミャンマーにも生産拠点を持ち、グローバルな供給体制を築いています。

主力製品は「作業服・ユニフォーム」であり、近年では以下のような新しい需要にも対応しています。

  • 空調服や電熱ギア:猛暑や寒冷環境に対応した機能性製品。
  • 環境配慮型商品:植物由来のPET繊維などを使ったサステナブル商品。
  • 女性向け・男女共用モデル:職場の多様性に対応するユニフォーム展開。

一方で、事業リスクも明確です。

  1. 海外依存リスク
    生産拠点は中国・ミャンマーに集中しており、政情不安や災害時の供給網寸断が懸念されます。
  2. 為替変動リスク
    輸入比率が高く、仕入れコストは米ドルや人民元に連動しているため、為替変動が収益に直結します。
  3. 在庫リスク
    需要予測に基づいた見込み生産を行うため、需要変動や景気悪化によって過剰在庫・値引き販売が発生する可能性があります。
  4. 競争と価格政策
    他社が値上げする中、自重堂は販売価格据え置きを続けており、短期的には収益性を圧迫する一方、長期的な顧客基盤維持にはプラスです。

これらのリスク管理の一環として、同社はサステナビリティやガバナンスを強化し、「脱炭素・環境配慮・人権尊重」を柱に経営を進めています。

今までの業績

直近5年間の連結業績推移を見ると、売上・利益ともに変動が大きく、2025年6月期は減収減益となりました。

  • 売上高:178億円(2021年6月期) → 149億円(2025年6月期)
  • 経常利益:22億円 → 16億円
  • 純利益:15億円 → 11億円
  • 自己資本比率:約91%と非常に高水準
  • 1株配当:300円 → 600円に増加(配当性向169.4%)

業績は減速傾向にある一方、配当は増加しており、株主還元を重視していることが分かります。ただし、利益減少にもかかわらず配当を維持・増加しているため、配当性向は169%と高水準に達しており、持続性には懸念が残ります。

また、株価指標では以下の傾向が見られます。

  • PER(株価収益率):2025年6月期は26.9倍と割高感が出ている。
  • ROE(自己資本利益率):2.7%と低水準。
  • 総資産:約419億円と安定。

キャッシュフローを見ると、営業活動によるCFは約39億円と安定的に稼ぎ出しており、現金残高は133億円に積み上がっているため、財務基盤は盤石です。

今後の業績

今後の見通しについては、以下の点が注目されます。

外部環境の影響

  • 円安・原材料高・物流コスト増が続き、収益性の回復には時間がかかる見込み。
  • 米国の通商政策や地政学リスクが、海外生産依存体制に影響を与える可能性あり。

成長ドライバー

  • 機能性ユニフォーム需要:猛暑対策の「空調服」や、電熱ギア「FEVER GEAR ADVANCE」などは働き方の多様化で需要増が期待されます。
  • 環境配慮型商品:企業のSDGs対応に合わせた製品供給は、新規需要を生み出す可能性が高い。
  • 女性向け市場の拡大:女性の社会進出に伴い、ユニフォームの多様化は長期的な成長要因に。

投資家への還元姿勢

財務的には潤沢な現金を持ち、借入依存も低いことから、今後も安定配当の継続が見込まれます。ただし、高配当性向が続くと減配リスクも否めません。ROE改善や収益回復が進まなければ、株主還元の持続性に不安が出る点は要注意です。

業種平均の比較分析

指標比較表

指標自重堂(65期)繊維製品業種平均差異
自己資本当期純利益率(ROE, %)2.75.13-2.43
総資産経常利益率(%)3.9(経常利益162.7億÷総資産419.5億)2.5+1.4
売上高営業利益率(%)9.7(営業利益144.6億÷売上高1493.6億)3.28+6.42
自己資本比率(%)91.152.1+39.0
配当性向(%)169.446.25+123.15
純資産配当率(%)4.59(1株配当600円÷1株純資産13,085円)2.26+2.33

コメント・詳細分析

1. 自己資本当期純利益率(ROE)

  • 数値比較:自重堂 2.7% vs 業種平均 5.13% → -2.43ポイント低い
  • 解説:ROEは株主資本をどれだけ効率的に利益へ変換しているかを示します。自重堂は超高水準の自己資本比率を持ちながら、利益率が低下しているためROEが業種平均を大きく下回っています。これは「財務の安全性は極めて高いが、株主資本を十分に活用できていない」という評価につながります。
  • 投資家視点:長期投資家にとってROEは成長性の指標です。2.7%は物足りない水準であり、資本効率の改善が今後の課題となります。

2. 総資産経常利益率

  • 数値比較:自重堂 3.9% vs 業種平均 2.5% → +1.4ポイント高い
  • 解説:総資産に対してどれだけ効率的に経常利益を稼げているかを示す指標です。ROEは低い一方で、総資産に対する収益性は業種平均を上回っています。これは、豊富な資産を背景に安定的に利益を生み出している証拠です。
  • 投資家視点:借入に頼らない経営を行っているため、財務リスクが低い点は高評価。資産を活用した安定収益が見込めることは、長期的に安心材料となります。

3. 売上高営業利益率

  • 数値比較:自重堂 9.7% vs 業種平均 3.28% → +6.42ポイント高い
  • 解説:売上に対して営業利益をどれだけ確保できているかを示します。自重堂は業種平均を大幅に上回る高い利益率を誇り、コスト管理力の高さやブランド力が反映されています。ただし、前期比では減収減益の傾向が見られるため、単年度では改善余地が残ります。
  • 投資家視点:高い利益率は魅力ですが、今後も継続できるかどうかがポイント。特に原材料高や為替変動にどこまで耐えられるかが注目されます。

4. 自己資本比率

  • 数値比較:自重堂 91.1% vs 業種平均 52.1% → +39ポイント高い
  • 解説:自己資本比率が90%を超えるのは、極めて健全な財務体質の証です。借入依存度がほぼゼロに近く、外部ショックに強い企業といえます。
  • 投資家視点:長期配当投資家にとって「倒産リスクが極めて低い」ことは大きな安心材料。高配当を長期で受け取り続けるには最も重要な条件の一つです。

5. 配当性向

  • 数値比較:自重堂 169.4% vs 業種平均 46.25% → +123.15ポイント高い
  • 解説:配当性向が100%を超えているということは、当期純利益以上の配当を株主に還元していることを意味します。これは内部留保を切り崩している状態であり、持続性には懸念が残ります。業種平均の約3.5倍という高さは異例です。
  • 投資家視点:高配当は魅力ですが、「減配リスクが潜んでいる」と認識すべきです。財務体力は強固なため短期的には維持可能ですが、長期的に同水準の配当を維持できるかは不透明です。

6. 純資産配当率

  • 数値比較:自重堂 4.59% vs 業種平均 2.26% → +2.33ポイント高い
  • 解説:純資産に対してどの程度の配当を支払っているかを示す指標です。自重堂は業種平均の2倍以上の水準であり、株主への還元姿勢は非常に積極的です。
  • 投資家視点:配当狙いの投資家にとっては大きな魅力ですが、企業としては内部留保が減るため将来の投資余力が削がれるリスクもあります。

配当方針と今後の展望

配当政策の基本方針

自重堂は株主還元を「重要な経営課題」と位置付けています。東京証券取引所が2023年に提示した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応要請」を受け、同社も資本効率や企業価値の向上を意識した株主還元を重視していることを明言しています。

同社の基本方針は以下のとおりです。

  • 配当は年1回、期末配当を基本(剰余金の配当は株主総会で決議)
  • 業績や企業価値を意識した株主還元を継続的に実施
  • 内部留保は事業投資に活用しつつ、安定的な配当を志向
  • 定款には「取締役会の決議により中間配当を行うことができる」との規定もあるが、現状は期末配当のみ実施

配当関連指標(第65期)

有価証券報告書のデータによると、2025年6月期(第65期)の配当は以下の通りです。

  • 1株当たり配当金:600円
  • 配当金総額:17億2,921万7千円
  • 配当性向:169.4%(純利益を大幅に上回る株主還元)
  • 純資産配当率:4.59%(1株当たり純資産13,085円に対し600円の配当)

この数値から分かるのは、当期純利益(約10.2億円)を大きく超える配当を実施したという点です。つまり、配当の原資は純利益だけでなく、過去の内部留保を取り崩して捻出していることを意味します。

配当方針の背景と経営者のスタンス

自重堂は、ユニフォームという特殊な市場で「在庫を豊富に確保し、即納体制を整える」というビジネスモデルを採用しています。このため、機会損失を防ぐことを優先し、安定的な経営基盤を維持する方針です。

経営陣は「ROEの向上を過度に追求することは、継続的な株主還元につながらない」と明言しており、ROEは5%を目安としつつも、財務健全性を重視した長期配当の継続を重んじるスタンスを示しています。

今後の配当方針の予測

ここからは、自重堂の配当政策が今後どのように推移するかを予測していきます。

1. 短期的(1~2年)見通し

  • 高配当(600円程度)は維持される可能性が高い
    理由:財務基盤が盤石であり(自己資本比率91.1%)、現金残高も133億円と豊富であるため、内部留保を活用すれば当面は高配当を維持可能。
    懸念点:配当性向が170%近くに達しており、利益との乖離は無視できない。

2. 中期的(3~5年)見通し

  • 減配リスクが顕在化
    利益の回復が伴わなければ、配当性向はさらに上昇し、持続不可能になる。業績が低迷すれば、将来的に500円程度までの減配を余儀なくされる可能性もある。
  • 安定配当にシフト
    株主への信頼を維持するため、安定的な配当水準(利益連動型)にシフトする可能性。例えば「DOE(株主資本配当率)基準」を導入する動きがあり得る。

3. 長期的(5年以上)見通し

  • サステナビリティ経営や新規需要(空調服・環境配慮型商品)の拡大により利益が回復すれば、高配当を継続可能
  • 逆に、収益が伸び悩むと「内部留保を維持しつつ安定配当へ移行」する可能性が高い。株主還元は継続するが、配当水準の調整(減配)は十分あり得る。

投資家にとっての示唆

  1. 財務基盤の強さは安心材料
    自己資本比率90%超という数値は業界でも突出しており、企業存続リスクは極めて低い。
  2. 高配当の魅力は一時的かもしれない
    600円配当は魅力的だが、利益とのバランスを考えると持続性に疑問が残る。減配リスクを理解した上で投資判断をすべき。
  3. 長期的な配当戦略の転換可能性
    今後は「配当性向ベース」から「DOE(純資産配当率)ベース」へ移行する可能性がある。株主にとっては安定感が増す一方、配当額は調整されるだろう。

長期配当投資評価

レーティング評価:

評価コメント

まず注目すべきは配当利回りの高さです。直近の配当は1株600円と業界でも突出しており、株価水準を踏まえても高配当株として大きな魅力があります。繊維製品業界の中でも自重堂は自己資本比率90%超という極めて健全な財務体質を持ち、倒産リスクや財務リスクが低い点も、長期投資家に安心感を与える材料です。FIREを目指す投資家にとって、目先のキャッシュフローを確保できることは魅力的でしょう。

一方で問題となるのは配当の持続性です。2025年6月期の配当性向は169%に達しており、当期純利益を大幅に超える配当を実施していることから、利益とのバランスを欠いている状況です。つまり、財務余力を切り崩して高配当を維持している形であり、今後も同水準の配当を続けられるかは不透明です。業績が伸び悩めば、いずれ減配のリスクが顕在化する可能性が高いといえます。高配当利回りに惹かれて投資を行う場合でも、持続性への不安を前提にリスク許容度を検討する必要があります。

さらに、連続増配の観点からも注意が必要です。近年の配当推移を見ると、300円から500円、そして600円へと段階的に増配してきた実績はあります。しかし、この増配は業績拡大に伴ったものではなく、むしろ利益が減少する中で配当を引き上げているため、純粋な「増配基調銘柄」とは評価しにくいのが現実です。長期的に安定して配当を増やし続ける花王や伊藤忠商事、あるいは三菱HCキャピタルのような「連続増配銘柄」と比較すると、やや見劣りする点は否めません。

総合すると、自重堂は「当面は高配当を享受できるが、将来的な減配リスクが存在する銘柄」です。安定財務を背景に短期的には安心して保有できますが、他の日本株の連続増配企業と比較すると「持続的な成長性や配当の一貫性」が弱いといえます。そのため、レーティングは★★★☆☆(星3つ)としました。高配当利回りの魅力は確かにありますが、FIREや長期配当狙いの投資家にとっては「減配リスクを許容できるか」が最大の判断ポイントとなるでしょう。