株式会社三東工業社【1788】の現状と今後を第71期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

株式会社三東工業社は、滋賀県を拠点とする建設業を中心とした企業グループです。主力は「土木事業」「建築事業」「環境開発事業」の3本柱で構成されています。
土木事業では、道路・上下水道・治山治水工事など公共性の高いインフラ整備に加え、地盤改良や特殊工法を用いた地下工事などを展開しています。建築事業では、事務所・学校・病院・工場・福祉施設といった幅広い建築物を手掛けており、元請受注が中心です。環境開発事業では、不動産関連に加え、環境保全や再生資源化に関する事業も担っています。

一方で、建設業特有のリスクが存在します。具体的には、公共工事入札競争の激化、人手不足による人件費高騰、資材価格の上昇、労働災害や品質不良のリスクなどです。また、取引先の信用リスクや自然災害・感染症の影響も懸念されます。同社はこれらに対応するため、取引先の信用調査、安全パトロール、資材調達の工夫、BCP(事業継続計画)の強化などの対策を講じています。

長期投資家の視点から見ると、同社は公共事業に強く安定した受注基盤を持ちながらも、外部環境変動による収益圧迫リスクを抱えています。そのため、将来の配当の安定性を評価する際には、こうした業界特有のリスク管理姿勢が重要なポイントとなります。

今までの業績

直近5年間の経営指標を見ると、売上・利益ともに回復基調にあります。第71期(2024年7月~2025年6月)には売上高約82億円、経常利益約3.3億円、純利益約2.3億円と、前期比で大幅な増収増益を達成しました。
特に、建築事業では前期の赤字から黒字へと転換し、環境開発事業も大幅に増収するなど、全セグメントがバランス良く伸長しています。土木事業は売上規模の半分以上を占め、安定的な収益源として機能しています。

財務基盤も強固で、自己資本比率は66.5%と高水準。純資産額は34億円を超え、財務の健全性を維持しています。1株当たり当期純利益は371.94円、配当は100円(うち特別配当30円を含む)を維持し、配当性向は31.3%とバランスの取れた水準です。
長期的に見ると、安定的な配当支払いを継続しており、FIREを目指す投資家にとっても再投資を前提とした資産形成に適した銘柄といえます。

ただし、営業キャッシュフローは一時的に赤字を計上した期もあり、資金繰りの変動には注意が必要です。とはいえ、直近期では黒字化を果たしており、財務体質から見ても大きな不安材料は少ないと考えられます。

今後の業績

今後の経営方針として、同社は「技術を社会に、笑顔をあなたに」という理念のもと、環境配慮型の高付加価値商品・サービスの提供を軸に成長を目指しています。滋賀県が進める「脱炭素社会の構築」や琵琶湖環境の保全に積極的に関与し、地域貢献と経営基盤の安定を両立させる戦略を掲げています。

中長期的な数値目標としては、売上よりも「利益率の向上」を重視しており、売上高営業利益率を高めることで3億円以上の経常利益を安定的に確保することを目指しています。また、研究開発では、地盤改良工法や建設廃材のリサイクル化、CLT(直交集成板)の活用など、環境技術を強みにした差別化戦略を進めています。

リスク要因としては、業界全体で人手不足が深刻化しており、外国人材の活用や新卒採用の強化が不可欠です。また、資材価格高騰の影響は避けられないため、発注側との価格交渉力や効率的な資材調達体制の整備が鍵となります。

個人投資家にとって注目すべきは「安定した配当政策」です。会社は株主への利益還元を重要な柱に据えており、今後も経営成績に応じて安定的な配当を継続する方針を示しています。財務基盤の強さ、地域に根ざした安定的な公共工事需要、環境配慮型の事業展開を背景に、長期的な配当余力は十分と評価できます。

業種平均の比較分析

指標比較表

指標業種平均(建設業)三東工業社差異(会社-平均)
自己資本当期純利益率(ROE)10.26%7.1%-3.16pt
総資産経常利益率6.19%6.65%+0.46pt
売上高営業利益率6.62%4.0%-2.62pt
自己資本比率42.68%66.5%+23.82pt
配当性向38.87%31.3%-7.57pt
純資産配当率3.88%1.8%前後-約2pt

コメント・詳細分析

1. 自己資本当期純利益率(ROE)

業種平均が10.26%に対し、同社は7.1%と約3ポイント下回っています。ROEは株主資本に対する利益効率を示す重要指標で、長期投資家にとって企業の稼ぐ力を判断する基準です。自己資本比率が高い同社では、安全性を重視した財務運営を行っているため、利益率は抑えめに出る傾向があります。高ROEを維持する同業他社に比べると、やや効率面で劣る点は投資妙味を下げる可能性があります。

2. 総資産経常利益率

業種平均6.19%に対し、同社は6.65%とやや上回っています。総資産を活用した利益創出能力は業界内でも一定の水準にあります。資産を大きく膨らませることなく収益を上げられている点は評価できます。特に安定した公共工事受注と効率的な資産活用が背景にあると考えられます。

3. 売上高営業利益率

業種平均6.62%に対し、同社は4.0%と約2.6ポイント低い水準です。営業利益率の低さは競争環境の厳しさや資材価格の高騰、人件費上昇の影響を強く受けている可能性を示しています。安定的な受注基盤を持ちながらも、利益を確保する力は業界平均に劣っており、今後は「利益率の改善」が重要な課題といえます。

4. 自己資本比率

業種平均42.68%に対し、同社は66.5%と20ポイント以上高い水準です。極めて健全な財務体質であり、倒産リスクや資金調達リスクは業界平均より大幅に低いといえます。株主にとっては安心材料ですが、一方で安全性を優先するあまり、積極的なレバレッジ経営によるROEの押し上げが限定的となっています。

5. 配当性向

業種平均38.87%に対し、同社は31.3%とやや低めです。これは利益の一部を内部留保として積み増し、将来の事業投資や安定的配当継続の原資に充てていると考えられます。短期的な配当利回りは業界平均に劣るものの、長期的には財務の安定性を背景に持続的な配当が期待できます。

6. 純資産配当率

業種平均3.88%に対し、同社はおおよそ1.8%前後と見られ、明確に低い水準です。株主資本を厚く抱えているため、配当額が同じでも利回りは低くなりがちです。投資家から見ると「資本効率の低さ」に映る可能性があり、今後の株主還元方針の強化が課題といえるでしょう。

配当方針と今後の展望

配当の実績と現状

株式会社三東工業社の有価証券報告書によると、直近5年間の配当実績は以下の通りです。

  • 第67期:60円
  • 第68期:70円(特別配当25円を含む)
  • 第69期:90円(特別配当30円を含む)
  • 第70期:100円(70周年記念配当30円を含む)
  • 第71期:100円(特別配当30円を含む)

このように、三東工業社は安定的な増配基調を維持しつつ、節目ごとに記念配当や特別配当を加えることで、株主への還元を強化してきました。配当性向はおおよそ30%前後で推移しており、財務の健全性を維持しながら安定配当を実現しています。

配当方針の特徴

同社の配当方針は以下の点にまとめられます。

  1. 安定的な配当継続
    財務基盤が強固であり、自己資本比率が60%超と高水準であるため、業績変動があっても配当の安定性は確保されています。
  2. 記念配当・特別配当を積極的に実施
    過去数年間で周年記念配当や特別配当を繰り返し実施しており、節目ごとに株主還元を強化する姿勢が見られます。
  3. 配当性向は中庸(30%前後)
    業種平均の38.9%より低めですが、内部留保を厚めに確保し、将来の投資や不測の事態に備える経営スタイルです。
  4. 株主利回り向上への意識
    株主総利回り(配当込み)は直近で185%と高い水準を示し、TOPIXを上回るパフォーマンスを達成しています。

今後の配当方針の展望

今後の配当方針については以下のように予測されます。

  • 安定配当+特別配当を継続
    過去5年間の実績から見ても、通常配当の水準を維持しつつ、業績や周年の節目に応じて特別配当を付与する可能性が高いです。長期投資家にとっては「安定+上振れ余地」がある点が魅力です。
  • 配当性向の漸進的引き上げ余地
    財務が健全であるため、今後は業界平均に近い40%程度まで配当性向を引き上げる余地があります。これにより、純資産配当率の改善が期待されます。
  • 株主還元策の多様化
    配当に加えて、自社株買いや株主優待制度の導入といった手段が検討される可能性があります。現状では優待制度はなく、導入すれば個人投資家への訴求力が高まります。
  • 安定的な公共工事需要に裏付けられた持続性
    同社は滋賀県を中心とする公共工事に強みを持ち、長期的に安定した収益基盤を維持しています。この基盤がある限り、減配リスクは極めて低いと考えられます。

投資家への示唆

長期配当を狙う投資家にとって三東工業社は「安定配当銘柄」と位置づけられます。特にFIREを目指す投資家にとっては以下の特徴が重要です。

  • 再投資による複利効果を狙いやすい安定配当
  • 記念配当や特別配当による予想外の増収効果
  • 財務の健全性が裏付ける減配リスクの低さ

一方で、業界平均と比較すると配当性向・純資産配当率は控えめであり、「配当利回りで資産拡大を加速させたい投資家」には物足りなさもあります。

長期配当投資評価

レーティング評価:

評価コメント

株式会社三東工業社は、長期投資で配当収入を狙う個人投資家にとって「安定感はあるが爆発力に欠ける銘柄」と位置づけられます。まず、配当利回りの観点では、直近の配当は1株あたり100円であり、株価水準(概ね3,000円台前半~後半)を考慮すると配当利回りは3%前後にとどまります。これは東証スタンダード市場に上場する地方建設業銘柄としては標準的であり、特に高配当株とされる電力株や商社株、金融株(利回り4~6%)と比べると見劣りします。そのため「配当利回り」という一点に限れば日本株全体の中で突出した魅力はありません。

一方で、配当の持続性という点では高く評価できます。自己資本比率は66.5%と業界平均を大幅に上回る水準にあり、財務基盤が極めて健全です。公共工事を中心とした安定した受注基盤が収益を下支えしており、減配リスクは小さいと考えられます。また、過去数年間の実績から、通常配当に加えて周年や特別なイベントに応じて「特別配当」や「記念配当」を積極的に実施しており、株主への還元姿勢は明確です。これにより、安定配当を続けながらも株主にサプライズを与える余地がある点は魅力といえるでしょう。

連続増配については、近年の実績では60円 → 70円 → 90円 → 100円と段階的に増加しており、一定の増配傾向を示しています。ただし、毎年必ず増配する「連続増配株」とは異なり、配当額は100円で据え置きとなる年もあります。日本株の中で連続増配を強く打ち出している花王や伊藤忠商事、武田薬品のような企業と比較すると、増配への強いこだわりは見られません。あくまで「業績と財務余力に応じて増配や特別配当を柔軟に実施する」方針といえます。

総合的に判断すると、三東工業社は「減配リスクの低さ」と「安定配当」という点で長期投資家には安心感を与えますが、「高配当」や「連続増配」に強みを持つ日本株と比較するとインパクトは弱く、星5つ満点のうち3つと評価するのが妥当です。すなわち、FIREを目指す高配当志向の投資家にとっては主力銘柄というよりは「ポートフォリオを安定させる守りの位置づけ」であり、攻めの高配当株と組み合わせて保有する戦略が望ましいといえるでしょう。