株式会社ユビテック【6662】の現状と今後を第49期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

株式会社ユビテックは、IoT技術を中核に据えたサービスを展開している企業です。主な事業は以下の三つに分類されます。

  • IoT事業:センサ搭載端末や車載機器などのハードウェア製品、サーバー・Webアプリケーションの開発、IoTプラットフォームの提供などを行っています。特に「D-Drive(飲酒運転防止や運行管理システム)」や「Work Mate(労働安全支援サービス)」といった自社SaaSサービスが注力領域です。
  • 製造受託事業:通信機器や医療関連機器の回路基板開発などを請け負っています。
  • 開発受託事業:組込みソフトウェアやシステム開発を手がけ、グループ会社のユビテックソリューションズがこの領域を担っています。

リスクとしては、以下が挙げられます。

  • 技術革新のスピードが速く、代替技術の出現に対応できないリスク。
  • 半導体などの部材調達コストの高騰や為替変動による原価上昇リスク。
  • 法制度改正(道路交通法や労働安全衛生規則など)への対応遅れによる影響。
  • 小規模組織ゆえの人材確保難、ノウハウ流出、システム障害や情報漏洩リスク。

特に2021年以降、連続赤字が続いている点から「継続企業の前提に関する重要事象」として注記がされており、早期の黒字化とキャッシュフロー改善が最大の経営課題です。

今までの業績

直近5年間の連結売上高は以下のように推移しています。

  • 2021年6月期:12.9億円
  • 2022年6月期:11.7億円
  • 2023年6月期:9.8億円
  • 2024年6月期:10.1億円
  • 2025年6月期:12.3億円

売上は回復傾向にあるものの、5期連続で経常赤字・最終赤字を計上しています。2025年6月期の純損失は約4.9億円と前期から拡大しており、自己資本利益率(ROE)は▲28.5%と大幅なマイナスです。結果として、純資産額は約15億円まで減少し、財務基盤は弱体化しています。

ただし、営業キャッシュフローは2025年6月期に黒字転換しており(約3,565万円プラス)、一部で改善の兆しも見られます。現金同等物も約12億円を維持しており、短期的な資金繰りには耐えられる水準です。

今後の業績

ユビテックは「新3か年計画(2026年~2028年)」を策定し、以下を重点目標としています。

  • 2026年6月期:営業利益の黒字化
  • 2027年6月期:営業キャッシュフローの黒字化
  • 2028年6月期:売上高16.5億円、営業利益2.2億円の達成
  • 早期の復配(配当再開)を目指す

成長戦略の柱は「D-Drive」と「Work Mate」の拡販です。特に、オリックス自動車との協業を通じた販売網強化、アルコールチェックシステムとの連携、AIによる労働災害予防機能の高度化が注目されています。また、これらのサービスから得られるデータを活用し、健康・安全管理に関する新サービスを展開する構想も掲げています。

一方で、計画達成には課題も多く、法改正対応やパートナーシップの強化、人材確保、セキュリティ対策の徹底が不可欠です。投資家にとっては、同社が掲げる黒字化ロードマップが予定通り進むか、営業キャッシュフローの安定的な黒字転換が実現するかが最大の注目ポイントです。

業種平均の比較分析

指標比較表

指標業種平均ユビテック差異
自己資本当期純利益率(ROE, %)9.7-28.5-38.2
総資産経常利益率(%)6.49-9.8(推計値:経常損失166百万円 ÷ 総資産17,012百万円)-16.3
売上高営業利益率(%)9.2-15.9(営業損失167百万円 ÷ 売上1,053百万円)-25.1
自己資本比率(%)48.5787.1+38.5
配当性向(%)33.180.0(無配)-33.18
純資産配当率(%)3.120.0(無配)-3.12

コメント・詳細分析

1. 自己資本当期純利益率(ROE)

業種平均が+9.7%に対し、ユビテックは-28.5%と大幅なマイナスです。これは、長期にわたる赤字計上により自己資本を有効に活用できていないことを意味します。ROEは投資家にとって企業の稼ぐ力を端的に示す指標であり、マイナス幅が大きいということは株主資本を毀損している状態に近いといえます。この状況を改善するには黒字化の早期達成が不可欠です。

2. 総資産経常利益率

業種平均の6.49%に対して、ユビテックは-9.8%(推計)と大幅に下回っています。総資産に対して利益を生み出せず、むしろ損失を発生させている点は、資産効率が著しく低いことを示しています。研究開発費や販売費に対して売上がまだ追いついていない状況であり、資産を活用した収益性の低さが浮き彫りになっています。

3. 売上高営業利益率

業種平均の9.2%に対し、ユビテックは-15.9%です。売上を伸ばしても販管費が大きく、営業損失に直結しています。営業利益率は企業の本業の収益性を示す重要指標であり、このマイナスは構造的なコスト負担の重さを意味します。今後はSaaS型サービス「D-Drive」や「Work Mate」の収益寄与で販管費を吸収できるかが焦点です。

4. 自己資本比率

業種平均が48.57%であるのに対し、ユビテックは87.1%と非常に高い水準です。これは有利子負債が少なく、自己資本中心で財務を維持していることを示しています。ただし、純資産自体が赤字の累積で減少しており、高い自己資本比率は必ずしも安全性を保証するものではありません。資産規模の縮小と赤字拡大で、相対的に「自己資本比率が高いだけ」の状態になっているといえます。

5. 配当性向

業種平均の33.18%に対して、ユビテックは0%(無配)です。赤字企業であるため、配当原資が存在せず、配当を実施できない状況です。長期投資家にとって配当は重要なリターン源ですが、現状は復配の目途が立っていません。経営計画では黒字化達成後に復配を検討するとされているため、少なくとも数期先まで配当を期待するのは難しいでしょう。

6. 純資産配当率

業種平均3.12%に対してユビテックは0%です。こちらも無配の影響で全くリターンがない状態です。配当だけでなく、自社株買いといった株主還元策も実施していないため、株主リターンは資本利得(株価上昇)に依存しています。しかし赤字基調が続く中では株価の持続的な上昇も見込みにくく、投資妙味に欠ける状況です。

配当方針と今後の展望

配当方針の概要

株式会社ユビテックは、株主への利益還元を重視する姿勢を明示しつつも、現状は安定的な配当実施が難しい状況にあります。有価証券報告書によれば、同社の基本方針は以下の通りです。

  • 内部留保の確保:事業拡大や新規開発投資に必要な資金を確保することを優先。
  • 株主利益の重視:利益が安定した場合には、安定配当を基本方針とする。
  • 配当実施の形式:原則として期末配当を年1回行い、その決定機関は株主総会とする。
  • 中間配当の可能性:定款上、取締役会決議により毎年12月31日を基準日に中間配当を実施することも可能。

しかし、2025年6月期においては、財務状況や経営環境を踏まえ「誠に遺憾ながら無配」としています。つまり、株主還元を掲げつつも、実際には赤字基調のため配当を行えない状況です。

配当関連指標の現状

  • 配当性向:0%(無配当)
  • 純資産配当率:0%(株主資本への還元なし)
  • ROE(自己資本利益率):-28.5%(業種平均9.7%を大きく下回る)
  • 自己資本比率:87.1%(業種平均48.57%を上回るが、赤字による資産縮小の影響)

配当余力を測る上で重要な利益水準がマイナスであるため、現状では株主還元を行う基盤が整っていないことが分かります。安定配当方針を掲げながらも、財務実態がそれを許していないというのが現状です。

今後の配当方針の予測

  1. 短期的展望(1~2年)
    現状の赤字構造を考えると、2026年6月期・2027年6月期も引き続き「無配」となる可能性が高いと考えられます。同社は2026年の営業黒字化を目標に掲げていますが、黒字化初年度からすぐに配当実施まで踏み切るのは現実的ではありません。まずは内部留保の積み増しと財務基盤の強化が優先されるでしょう。
  2. 中期的展望(3~5年)
    同社の中期経営計画では、2028年までに営業利益2.2億円を目標としており、ここで黒字定着が確認できれば復配の可能性が高まります。特に「D-Drive(アルコールチェック・運行管理システム)」や「Work Mate(労働安全支援サービス)」の拡大によって安定的なサブスクリプション収益が確保できれば、将来的に配当原資を確保できると予測されます。
  3. 長期的展望(5年以上)
    SaaS型ビジネスが安定収益を生む段階に入れば、安定配当方針に沿った株主還元を実施する可能性が高いです。業種平均並みの配当性向(30%前後)を目指す姿勢を打ち出すことも考えられます。ただし、成長投資と株主還元のバランスが課題となり、当面は「内部留保優先→復配は限定的」という流れになるとみられます。

投資家への示唆

長期配当を狙う個人投資家にとって、現時点のユビテックは「配当投資銘柄」ではありません。業種平均に比べても株主還元姿勢は大きく劣後しています。ただし、以下のような条件が満たされれば、将来的に復配が期待できる銘柄となる可能性があります。

  • 2026年以降の黒字化達成
  • SaaSサービスの拡販による収益基盤の安定化
  • 純資産の回復と配当余力の確保

つまり、「無配からの復配を果たす転換点に投資する」戦略が取れる銘柄といえます。

長期配当投資評価

レーティング評価:

評価コメント

株式会社ユビテックを「長期投資による長期配当狙い」の観点から評価すると、現時点では★1つが妥当です。他の日本株、特に配当重視の投資家に人気の高配当株(商社株、銀行株、インフラ関連銘柄など)と比較すると、配当利回り・持続性・増配実績のいずれにおいても大きく劣後しているためです。

まず 配当利回り についてですが、直近期(2025年6月期)まで無配が続いており、現状では配当利回りはゼロです。一方で、業種平均の配当性向は30%台で推移し、同業の電気機器セクターでは3%前後の利回りを提供している銘柄も多く存在します。この比較においてユビテックは明らかに投資妙味が低いといえます。

次に 配当の持続性 の観点では、連続赤字により内部留保を積み上げるどころか、純資産の減少が続いています。配当を継続するためには安定的なフリーキャッシュフローと利益水準が必要ですが、同社はようやく営業キャッシュフローがプラスに転じたばかりで、持続的配当の基盤はまだ脆弱です。仮に近い将来復配を果たしたとしても、利益水準やキャッシュフローの変動が大きいため、安定配当を維持するのは難しいと予想されます。

さらに 連続増配 という観点では、同社は過去に一度も安定的な増配トラックレコードを築いた実績がありません。むしろここ数年は赤字基調で「無配」が続いており、投資家にとって「配当成長」という魅力を享受する余地は皆無です。対照的に、同じ日本株市場では花王やオリックス、JTなど、長年にわたり連続増配や安定配当を継続してきた企業が存在しており、それらと比較すると投資妙味は著しく低いと言わざるを得ません。

総合すると、ユビテックは将来的に黒字化・収益安定化を実現すれば復配の可能性はあるものの、現状は「配当ゼロ」「持続性の欠如」「増配実績なし」という三重苦の状態です。したがって、配当を目的とした長期投資対象としてはおすすめ度は最低ランクとなります。現時点では成長株や再建株としての側面での投資判断はあり得るものの、「配当狙いの長期投資」という観点では、日本株市場においてより魅力的な銘柄が多数存在するため、本企業を優先して選ぶ理由は乏しいといえるでしょう。