テックファームホールディングス【3625】の現状と今後を34期有価証券報告書から探る

企業概要

事業内容とリスク

テックファームホールディングス株式会社は、東京都新宿区に本社を構えるIT企業グループです。主力は ICTソリューション事業クロスボーダー流通プラットフォーム事業 の2つです。

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ICTソリューション事業

こちらは、企業向けの基幹システムや業務システムを開発・運用するビジネスです。AIやXR(VR/AR/MR)といった最先端技術を活用したシステム開発を強みとし、大型案件の獲得にも積極的です。近年では AIを使ったデータ分析ソリューション を化粧品メーカーに導入するなど、実績を積み重ねています。

ICTソリューションは売上の大部分を占める収益源ですが、同時にリスクも抱えます。大型案件の進捗遅れや不採算プロジェクトが発生すると、利益に大きな影響が出るため、プロジェクト管理能力が重要です。

クロスボーダー流通プラットフォーム事業

一方で同社は、食品や美容品の輸出を支援する「越境流通プラットフォーム」事業も展開しています。シンガポールを拠点に直営店舗やECサイトを運営し、日本の地方企業や自治体と連携して販売促進イベントを開催するなど、販路拡大を進めています。この事業はまだ赤字ですが、成長余地は大きく、将来の柱に育てたいとしています。

主なリスク要因

投資家の視点で押さえておくべきリスクは以下のとおりです。

  • 特定事業依存:ICTソリューションへの依存度が依然として高く、売上が偏っている。
  • 研究開発投資:AIやドローンなど新技術への投資が継続しており、成果が出ない場合は利益を圧迫する可能性。
  • 人材確保:エンジニア不足が続く中、優秀な人材を確保できないと競争力を失うリスク。
  • 海外事業リスク:シンガポールを中心に展開しているため、現地の経済・規制・地政学的リスクが収益に影響し得る。

こうしたリスクをどうコントロールするかが、長期的な企業価値を決めるポイントです。

今までの業績

売上・利益の推移

直近5年間の売上高を見ると、2025年6月期は 67億円 と、前年の50億円から大幅に増加しました。経常利益は7.6億円、純利益は5.0億円と、いずれも過去最高水準を記録しています。これはICTソリューション事業の大型案件が安定稼働したことが要因です。

一方、クロスボーダー流通事業は依然として赤字ですが、前年より赤字幅を縮小しており改善傾向が見られます。

財務の健全性

自己資本比率は54.8%と、上場企業の中でも比較的高水準です。現金同等物も25億円超を保有しており、財務基盤は安定しています。ただし、研究開発や人材投資に積極的なため、今後も投資による資金流出が想定されます。

配当の推移

注目すべきは 配当の安定性 です。過去5期連続で配当を出しており、2025年6月期は 1株あたり8円 に増配しています。一株利益(EPS)が70.75円であるため、配当性向はおよそ11%と低め。つまり「まだ配当余力が十分にある」という見方ができます。

今後の業績

会社の方針

テックファームHDは、「最先端テクノロジーと創造力で産業の変革をリードする」というミッションを掲げています。具体的には以下の戦略が進められています。

  • ICTソリューション事業
  • 優秀なエンジニアの採用強化
  • 給与・福利厚生改善による人材定着
  • 生成AIの全社活用(コード自動生成や要件定義支援)
  • AI・XR分野での新規サービス開発
  • クロスボーダー流通事業
  • シンガポール店舗の販促強化
  • EC・デジタルマーケティングの拡大
  • 日本の地方企業の海外進出支援
  • ASEAN市場への展開

来期の業績予想

2026年6月期の業績見通しは以下の通りです。

  • 売上高:72億円(前年67億円から+7%)
  • 営業利益:6億円
  • 経常利益:5.8億円
  • 純利益:3.3億円

つまり「売上は伸びるが、利益はやや減少」という見込みです。理由は、エンジニア採用や教育、AI投資など先行費用を増やすためです。短期的には利益圧迫要因となりますが、中長期的には成長投資として評価できます。

長期投資家にとってのポイント

  • 配当余力:現状の配当性向が低いため、業績が安定すれば増配余地あり。
  • 成長投資:生成AIやクロスボーダー事業は将来の収益源となる可能性。
  • リスク:ICTソリューション依存が続く限り、大型案件の成否で業績が左右されやすい。

テックファームホールディングスと業種平均の比較分析

財務指標の比較表

指標テックファームHD (2025年6月期)情報・通信業 平均差異
自己資本当期純利益率 (ROE)20.1%10.68%+9.42pt
総資産経常利益率15.3%(=761,146千円 ÷ 4,963,248千円 ×100)5.45%+9.85pt
売上高営業利益率11.2%(=749,519千円 ÷ 6,705,697千円 ×100)11.36%-0.16pt
自己資本比率54.8%32.89%+21.91pt
配当性向約11.3%(=1株配当8円 ÷ EPS70.75円)37.14%-25.84pt
純資産配当率約2.1%(=1株配当8円 ÷ 1株純資産383.65円)3.45%-1.35pt

コメント・詳細分析

1. 自己資本当期純利益率(ROE)

ROEは株主資本に対する純利益の割合を示す指標で、株主にとっての資本効率を測る尺度です。

  • テックファームHD:20.1%
  • 業種平均:10.68%

この差は実に約9ポイント。情報・通信業の中でも突出した高い水準です。ROEが高い要因は、利益の急増にあります。2024年6月期に純利益1.6億円だったものが、2025年6月期には5.0億円と大幅に増加しました。ICTソリューション事業の大型案件が安定稼働し、利益率が改善したことが大きく寄与しています。

一方で、ROEが高い状態が今後も続くかは不透明です。テックファームHDはAIや人材投資などに積極的で、来期は純利益の減少を予想しています。従って、この20%という数値は一時的なピークの可能性がある点に注意が必要です。

2. 総資産経常利益率

総資産経常利益率は、企業が保有する資産全体をどれだけ効率的に使って利益を稼いでいるかを示します。

  • テックファームHD:15.3%
  • 業種平均:5.45%

こちらも業種平均を大きく上回ります。資産規模(約50億円)に対して、7.6億円の経常利益を稼ぎ出しており、資産効率が非常に高い状態です。これはIT企業特有の軽資産経営(大きな設備投資を必要とせず、人材と技術が主な資産)が反映された結果ともいえます。

ただし、ICTソリューション事業は大型案件に依存しているため、案件が途切れると資産効率が急低下するリスクがあります。業種平均よりはるかに高い水準は魅力的ですが、安定性には疑問符がつきます。

3. 売上高営業利益率

売上に対して営業利益がどれだけ残るかを示す指標です。

  • テックファームHD:11.2%
  • 業種平均:11.36%

ほぼ同水準であり、業界標準的な収益力を持っているといえます。つまり、営業利益率の面では「突出した強さ」ではなく「業界並みの安定性」を示しています。ここからわかるのは、ROEや総資産経常利益率が高いのは、主に利益の急増による一時的な要因である可能性が高いということです。

4. 自己資本比率

財務の安全性を示す自己資本比率は、株主資本が総資産に占める割合です。

  • テックファームHD:54.8%
  • 業種平均:32.89%

この差は約22ポイント。極めて健全な財務体質です。IT企業は一般に資産が軽いため自己資本比率が高めになる傾向がありますが、それを踏まえても50%超は安心感があります。長期投資家にとって、倒産リスクが低い点は重要なプラス材料です。

5. 配当性向

配当性向は利益のうちどれだけを配当に回すかを示します。

  • テックファームHD:約11.3%
  • 業種平均:37.14%

ここには大きな差があります。テックファームHDは配当を出しているものの、その割合は低く、利益の大半を内部留保や投資に回しています。短期的に配当利回りを重視する投資家には物足りない水準ですが、成長投資を優先する企業方針と考えると納得できます。

長期的には、内部留保で稼いだ利益を基盤に増配余地が大きいと解釈できます。実際、2025年6月期には1株配当を5円から8円に増額しており、株主還元姿勢は強まりつつあります。

6. 純資産配当率

純資産配当率は、株主資産に対してどれだけの配当を払っているかを示す指標です。

  • テックファームHD:約2.1%
  • 業種平均:3.45%

こちらも平均を下回ります。株主資産に対しての還元は控えめで、投資家が「配当で安定的にリターンを得たい」と考える場合には、やや物足りなく映ります。ただし、将来的に配当を増額していく余地が大きい点は評価できます。

7. 総合評価と長期投資家への示唆

今回の比較から浮かび上がるテックファームHDの特徴は以下の通りです。

  1. 収益効率の高さ(ROE・総資産経常利益率)
    業種平均を大きく上回る高水準。ただし一時的な要因が大きく、来期以降の持続性は要確認。
  2. 営業利益率は業界並み
    売上高に対する利益率は平均的で、特別高収益体質というわけではない。
  3. 財務の健全性(自己資本比率)
    倒産リスクが低く、長期的に事業を継続できる土台が整っている。
  4. 株主還元の控えめさ(配当性向・純資産配当率)
    利益の多くを成長投資に回しており、配当狙いの投資家にとってはやや不満。ただし増配余地は十分。

8. 投資家へのアドバイス

  • FIREを目指す高配当投資家
    現状の配当水準は低めなので、即効性は期待しにくい。ただし将来の増配可能性を見込んで長期で保有する選択肢はある。
  • 成長+配当のバランスを狙う投資家
    現在の高ROEと成長投資姿勢は魅力的。業績拡大とともに増配が進めば、株価上昇+配当で二重のリターンが期待できる。
  • 短期志向の投資家
    来期は利益減少予想であり、短期的には株価変動が大きくなる可能性があるため注意が必要。

テックファームホールディングスの配当方針と今後の展望

1. 現在の配当方針

テックファームホールディングス株式会社(以下、テックファームHD)は、株主に対する利益還元を「重要な経営課題」と位置付けています。その基本方針は以下の通りです。

  • 内部留保を確保しつつ、業績に応じた配当を実施
  • 配当回数は原則として年1回(期末)または年2回(中間+期末)
  • 決定権限は、中間配当が取締役会、期末配当が株主総会
  • 内部留保は事業拡大・研究開発投資に有効活用
  • 自己株式の取得も資本政策の一環として活用

2025年6月期については、1株あたり8円の配当が定時株主総会で決議される予定となっています。総額でおよそ5,668万円の還元規模です。

2. 過去の配当実績と配当関連指標

直近数年間の配当や関連指標は以下の通りです。

  • 第34期(2025年6月期):1株あたり配当8円(予定)、配当性向約11%
  • 第33期(2024年6月期):1株あたり配当5円、配当性向は130.6%(当期純利益が小さかったため高比率)
  • 第32期以前:業績に応じて配当を実施。純利益赤字の期もあり、配当は安定的ではなかった。

関連指標を見ると、自己資本比率は6割前後と財務体質は堅固ですが、配当性向は年度によって大きく変動していることがわかります。つまり「安定高配当銘柄」というよりも「成長投資を優先しつつ、余力の範囲で株主還元を行うスタンス」に近いといえます。

3. 今後の配当方針の展望

(1)業績連動型の配当継続

現行の方針から考えると、テックファームHDは 業績に応じて配当額を柔軟に変動させる方針 を今後も維持すると見られます。2025年6月期の利益急増に伴い、5円から8円へと増配した事例はその象徴です。

(2)内部留保重視

AIやXR分野への研究開発投資や、海外展開を含むクロスボーダー事業強化の方針が明記されていることから、短期的には内部留保に回る利益が多くなると予想されます。よって、業績が伸びても配当性向は比較的低水準に留まり、成長投資に資金を振り向ける戦略が続くでしょう。

(3)増配余地の存在

現在の配当性向が11%前後と低いため、将来的には増配余地が十分にあります。業績が安定し、一定の成長投資が一巡すれば、配当性向を業界平均(情報・通信業の約37%)に近づける方向性も考えられます。これは長期保有投資家にとってポジティブなシナリオです。

(4)自己株式の活用

有価証券報告書では、自己株式の取得を「機動的な資本政策」の一環として活用すると明言されています。今後、配当だけでなく自己株式買いによる株主還元も強化される可能性があります。

4. 投資家への示唆

テックファームHDの配当方針は「株主還元を重視しつつ、成長投資を優先する」スタイルです。したがって、次のような投資家に向いています。

  • 成長企業に腰を据えて投資し、将来的な増配を期待する長期投資家
  • 業績次第で配当が上下する柔軟さを許容できる投資家
  • 自己資本比率の高さを重視し、倒産リスクが低い企業に投資したい人

一方で、毎年安定して高配当を求める投資家にとっては、現状の配当性向や配当水準はやや物足りないかもしれません。

テックファームホールディングスの長期投資評価

レーティング評価:

評価理由

テックファームホールディングス株式会社は、ICTソリューションを中心に安定的な収益基盤を持ち、自己資本比率も50%超と財務の健全性に優れる企業です。これは長期投資家にとって大きな安心材料です。加えて、2025年6月期におけるROE(20%超)や総資産経常利益率(15%超)は、情報・通信業の業種平均を大きく上回っており、効率的に利益を稼いでいる点も魅力といえます。

一方で、配当政策を見てみると、現状の配当性向はおよそ11%と低く、業界平均(約37%)に比べて株主還元はまだ控えめです。2025年6月期には5円から8円への増配を行い株主還元の姿勢を示しましたが、それでも高配当株と呼べる水準には至っていません。これは、AIやXR、クロスボーダー流通といった新規領域に積極投資を続ける企業方針によるものです。裏を返せば、短期的な配当利回りの魅力は弱い一方、長期的な成長による増配のポテンシャルは高いといえます。

他の日本株、特に成熟した高配当銘柄(銀行、商社、インフラ関連など)と比較すると、現時点での安定配当という観点では劣後します。しかし、成長投資を通じて将来的に増配余地が大きい点を加味すれば、「安定性よりも将来性を重視する長期投資家」には一定の魅力を持つ銘柄です。

総合すると、テックファームHDは「長期配当銘柄」として現時点では★★★☆☆(3/5)の評価が妥当と考えます。高配当株と比較すると物足りなさがありますが、成長企業としてのポテンシャルと増配余地を評価すれば、中長期で保有する価値は十分にあるでしょう。今後、配当性向を業界水準に近づける方向にシフトするかどうかが、投資判断の大きなポイントとなります。