株式会社ホーブ【1382】の現状と今後を第39期有価証券報告書から探る

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企業概要

事業内容とリスク

株式会社ホーブは、北海道に本社を構える企業で、「いちご」という農産物に特化したユニークなビジネスモデルを展開しています。同社の強みは、いちごの新品種の研究開発から苗の生産販売、果実の流通販売に至るまで、一貫して手がけている点にあります。特に「ペチカエバー」「夏瑞(なつみずき)」といった四季成性いちごの自社ブランドを持ち、従来冬から春に限定されていた国産いちごの収穫を夏秋期まで拡大。これにより、洋菓子メーカーの「一年中、国産いちごを使用したい」という需要に応えてきました。

また、同社は培養技術を駆使して病気に強い苗を量産できる技術を確立。これにより、生産農家にとっては安定的で効率的な栽培が可能となり、ホーブが強固なサプライチェーンを築く基盤となっています。さらに、馬鈴薯(じゃがいも)の種苗や青果販売、輸送事業を担う子会社を通じて、事業の裾野を広げています。

一方でリスクも多く存在します。特に天候不順や猛暑、台風といった自然条件は収穫量に直結し、業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、生産農家との契約形態上、品質基準に合わない果実は買取対象外となり、結果として廃棄や在庫リスクが生じる点も課題です。さらに、新品種の育成には5~10年もの時間を要し、研究開発の成果がすぐに業績に反映されるとは限らない難しさもあります。その他、農業特有の病虫害リスクや物流子会社における燃料費高騰・法規制強化なども、収益安定性を揺るがす要因です。

総じて、ホーブは独自技術とブランドで競争力を維持しているものの、農業特有の外部環境リスクを抱えている点には注意が必要です。

今までの業績

有価証券報告書によると、直近5年間の業績推移は以下のようになっています。

  • 売上高
    2021年6月期の約30億円から、2025年6月期には約24億円に減少。ピーク時から右肩下がりの傾向が見られます。需要減少や猛暑などの外部要因が影響したと考えられます。
  • 経常利益
    2022年6月期に約1.5億円と好調だったものの、2024年・2025年は約0.4億円に低下。利益率の低下が顕著です。
  • 純利益
    2022年に約1.4億円を計上した後、2024年には2千万円台に急落。2025年には若干回復し約2.5千万円となりましたが、安定感を欠いています。
  • 財務基盤
    自己資本比率は70%前後と高水準を維持しており、倒産リスクは低いと評価できます。ただし、営業キャッシュフローはマイナスの年度もあり、収益構造の不安定さは否めません。
  • 配当
    ここ数年は1株当たり50円の配当を継続しており、株主還元姿勢は明確です。しかし、利益水準に対して配当額が大きく、配当性向は200%を超える年度もありました。これは、利益よりも株主還元を優先している姿勢と捉えられる一方、持続性に疑問が残る点でもあります。

これまでの実績からは、売上と利益の波が大きく、安定的な成長よりも「守りの経営」で株主還元を維持している構図が見て取れます。

今後の業績

ホーブが直面している最大の課題は、いちご事業の安定性です。報告書によれば、生産者の高齢化や猛暑の影響で栽培面積が減少し、出荷量が落ち込む傾向にあります。これに対応するため、同社は以下の取り組みを進めています。

  1. 新品種開発の推進
    耐暑性や病害虫への耐性を高めた新品種を開発し、温暖化に適応する体制を整備。海外市場をも視野に入れた展開も計画されています。
  2. 種苗事業の拡大
    苗生産の分業システムを確立し、生産農家の負担を軽減。これにより栽培農家の裾野拡大を図る戦略です。
  3. 収益構造の強化
    高付加価値品種「夏瑞/なつみずき」のブランド力を活かし、洋菓子メーカーとの取引を強化。さらに、収量性の高い「コア」品種を組み合わせて、夏秋期の安定収益化を目指します。
  4. 物流・馬鈴薯事業の維持
    運送子会社では効率的な配送網の強化、馬鈴薯事業では海外品種の導入による差別化を進め、収益分散を狙っています。

投資家視点では、ホーブの今後の収益成長は新品種の育成にかかっています。ただし、農業分野は研究開発成果が収益化するまでに長期を要するため、短期的な収益拡大は難しいでしょう。その一方で、自己資本比率の高さやブランド力を背景に、長期的には農業バイオテクノロジー企業として成長が期待されます。

また、株主還元については今後も配当維持を重視する姿勢が続くと考えられます。ただし、利益に対して配当が過大な状態が長期化すれば内部留保が減少し、成長投資に制約が生じる可能性があります。そのため、配当の持続性と成長投資のバランスが今後の重要な注目点となります。

業種平均の比較分析

株式関連指標の状況

以下の表は、株式会社ホーブの直近期(2025年6月期)の財務指標と、水産・農林業に属する業種平均値を比較したものです。差異を示すことで、業種内での相対的な位置づけを分かりやすくしています。

指標ホーブ業種平均(水産・農林業)差異(ホーブ-業種平均)
自己資本当期純利益率(ROE, %)2.19.98-7.88
総資産経常利益率(%)2.4*5.5-3.1
売上高営業利益率(%)1.6*3.74-2.1
自己資本比率(%)70.844.61+26.19
配当性向(%)257.527.36+230.14
純資産配当率(%)2.5*2.57-0.07

※総資産経常利益率、売上高営業利益率、純資産配当率については、有価証券報告書の数値から算定・推計。

コメント・詳細分析

  1. 自己資本当期純利益率(ROE)
    ホーブのROEは2.1%と、業種平均の9.98%を大きく下回っています。ROEは株主資本に対する利益の効率性を示す指標で、長期投資を重視する投資家にとって最も注目度の高い指標の一つです。ホーブの低ROEは、利益水準の低さが原因であり、特に2024年から2025年にかけての純利益額が数千万円規模にとどまっていることが響いています。業種平均と比較すると約7.9ポイント低く、資本効率の改善が大きな課題となります。これは株価の低評価につながる可能性もあり、投資家は注意すべき点です。
  2. 総資産経常利益率
    ホーブの総資産経常利益率は2.4%程度と推計され、業種平均の5.5%を大きく下回っています。総資産に対する経常利益の割合が低いということは、資産を活用して効率的に利益を生み出せていないことを意味します。特に近年は売上高の減少や気候変動リスクによる収益圧迫が大きく、総資産規模を維持しているにもかかわらず利益が伴っていない構図が浮かび上がります。これは固定資産や物流網を維持しながら、収益基盤の強化が進んでいないことの裏返しといえます。
  3. 売上高営業利益率
    売上高営業利益率は1.6%程度と低水準で、業種平均3.74%との差は約2ポイントです。営業利益率は本業の収益性を示すため、投資家にとっては事業モデルの収益力を測る重要な指標です。ホーブの場合、いちご苗や果実の販売という農業特有の事業構造上、天候・生産性の変動に強く依存しているため、安定した利益率の確保が難しい現実があります。また、物流や資材販売も行っているものの、高コスト体質が改善されず、業界水準に届かない結果となっています。この低い利益率は、長期的な株主還元力に直結するため改善が急務です。
  4. 自己資本比率
    ホーブの自己資本比率は70.8%と非常に高く、業種平均44.61%を大幅に上回っています。これは財務の健全性を示すものであり、借入依存度が低く、倒産リスクが相対的に小さいことを意味します。長期投資を考える上で、この高い自己資本比率は安心材料です。ただし、裏を返せば、資本を効率的に使って利益を生み出せていない(ROEが低い)という課題にもつながっています。安定性は高いものの、成長性・収益性が伴わない状況は投資家にとって悩ましい点です。
  5. 配当性向
    ホーブの配当性向は257.5%と、業種平均27.36%を大幅に超えています。つまり、利益の2.5倍以上を株主に還元している状態であり、利益額をはるかに上回る配当を出していることを意味します。これは一見すると株主に優しい政策ですが、内部留保を削って配当を維持しているため、将来的な成長投資や経営の安定性を損なうリスクがあります。業種平均の約10倍にあたる水準であることから、持続可能性に疑問符がつきます。長期投資家にとっては、「短期的には魅力的だが長期的には不安」という評価になるでしょう。
  6. 純資産配当率
    ホーブの純資産配当率は2.5%と推定され、業種平均の2.57%とほぼ同水準です。この指標は株主資本に対する配当の利回りを示すもので、配当水準が適切かどうかを判断する材料となります。ホーブは高い配当性向で利益を超える配当を行っているため、結果的に純資産配当率は業界平均並みに維持されています。しかし、これはあくまで内部資本を削って実現している数値であり、企業体力を消耗して得られた「見かけ上の安定」に過ぎない点に注意が必要です。

配当方針と今後の展望

配当方針

株式会社ホーブは、有価証券報告書において「将来の事業展開と経営体質強化のために必要な内部留保を確保しながら、安定配当を継続・維持しつつ業績を考慮して、積極的な配当政策を行う」と明言しています。剰余金の配当は基本的に年1回の期末配当を原則とし、株主総会で決定されますが、定款上は取締役会決議による中間配当も可能とされています。

2025年6月期には、この方針に基づき1株当たり50円の配当を実施し、配当性向は257.5%という極めて高水準に達しました。これは当期純利益(1株当たり19.42円)を大幅に超える金額であり、内部留保を取り崩しながら株主還元を優先した結果です。配当総額は38,082千円で、2025年9月24日の定時株主総会で正式に決議されています。

配当関連指標の現状

  • 1株当たり配当額:直近5期では無配の年を除き、概ね50円前後を維持。第36期には創業35周年記念配当5円が加算されました。
  • 配当性向:2023年6月期561.3%、2025年6月期257.5%と、利益を大きく上回る配当を続けています。
  • 純資産配当率:おおむね2.5%前後で推移し、業種平均と同水準を維持。

このように、ホーブは「高い配当性向」と「業界並みの純資産配当率」を特徴としています。つまり、内部留保を削ってでも株主還元を維持する姿勢が読み取れます。

今後の配当方針の展望

  1. 安定配当重視の継続
    ホーブは「安定配当の維持」を明記しており、今後も50円前後の配当を続ける可能性が高いです。投資家にとっては予見性の高い還元策であり、株主還元重視の姿勢は継続するとみられます。
  2. 内部留保と配当のバランス課題
    現状の配当は利益を上回る水準であり、内部留保を取り崩して配当を実現しています。報告書でも「内部留保金を生産技術や人材育成に有効投資する」と記載しており、今後は成長投資とのバランスが重要な論点となります。もし収益改善が進まなければ、将来的に配当維持が難しくなる可能性も否定できません。
  3. 業績連動の強化の可能性
    業績が伸び悩む中、利益以上の配当を出す状態は持続性に乏しいため、一定のタイミングで「業績連動型」へ方針転換する余地があります。具体的には、利益の30~40%程度を配当原資とする一般的な水準に近づける方向性が考えられます。
  4. 株主還元手段の多様化
    定款には自己株式の取得が認められており、今後は配当だけでなく自己株買いによる株主還元策も視野に入る可能性があります。資本効率の改善を目的とした柔軟な手段が取られるかもしれません。

投資家への示唆

ホーブの配当政策は、短期的には「高い配当性向で魅力的」と映りますが、長期的には「利益水準に見合わない無理のある水準」である点が最大のリスクです。将来的には以下の2つのシナリオが想定されます。

  • 維持シナリオ:現状通り利益以上の配当を継続し、株主に安定したキャッシュフローを提供。ただし内部留保が減少し、成長投資が制約を受ける。
  • 修正シナリオ:利益成長とともに配当を業績連動型に修正し、配当性向を業界平均(約30%前後)へ近づける。内部留保を活かして新品種開発・海外展開に投資。

長期配当を目当てとする投資家にとっては、ホーブは「短期的には高配当で魅力的だが、持続性に課題がある銘柄」と位置づけられます。今後の注目点は、利益成長を伴ったうえで配当方針をどのように調整するかです。利益と配当の健全なバランスが確立されれば、安定的な長期投資対象としての評価が高まるでしょう。

長期配当投資評価

レーティング評価:

コメント

株式会社ホーブは、長期投資による配当狙いという観点から見ると、現状では「やや厳しい」と言わざるを得ません。その理由は以下の通りです。

まず、同社はこれまで安定的に1株あたり50円の配当を続けており、株主還元の姿勢は一貫しています。配当総額も一定規模を維持しており、短期的に配当を狙う投資家にとっては安心感があります。特に日本株の中には、業績変動に応じて減配や無配に転じる企業も少なくない中で、ホーブの「配当維持」方針は株主重視の姿勢として高く評価できます。また、自己資本比率が70%を超える水準にあるため、財務基盤が安定している点も長期保有における安心材料です。

しかしながら、最大の課題は「収益性の低さ」と「配当の持続可能性」です。ROEは2%前後と業種平均を大きく下回り、総資産経常利益率や売上高営業利益率も低水準にとどまっています。つまり、会社が生み出す利益そのものが少なく、株主資本を効率的に活用できていません。その結果、配当性向は直近で250%を超えており、利益の数倍の金額を株主に還元している状況です。これは内部留保を取り崩して配当を維持していることを意味し、長期的には持続可能性に疑問が残ります。日本株全体で見れば、多くの企業は配当性向30~40%を目安としており、それと比較するとホーブの水準は明らかに異常値です。

また、今後の成長戦略として新品種いちごの開発や海外展開が掲げられていますが、農業ビジネスは研究開発から収益化までに長い時間を要する産業であり、短中期での業績改善は難しいと考えられます。配当を維持するには安定した利益成長が不可欠ですが、現時点ではまだその道筋が明確ではありません。日本株の中には、同様に高配当を維持しつつ利益成長も実現している食品・飲料・インフラ関連企業が多数存在します。そうした銘柄と比較すると、ホーブは「高配当だが利益裏付けが弱い」というリスクが際立ちます。

総合的に判断すると、ホーブは短期的な高配当利回りは魅力ですが、長期投資で安定配当を享受する目的には不向きです。成長性と持続可能性を重視する投資家にとっては、他の日本株の方が有利な選択肢となるでしょう。そのため、レーティングは5段階中「星2つ」としました。