企業概要
事業内容とリスク
株式会社ギックスは「データインフォームド」という独自の思想を掲げ、データを“も”活用して人間の判断をより合理的かつ高度なものにすることを目指しています。主力事業は「Data-Informed事業」の単一セグメントで、サービス領域は「Business Innovation」と「System Innovation」に分類されます。
Business Innovationでは、企業の顧客理解を深めることで業績改善につなげる支援を行います。たとえば、顧客の属性情報をもとに購買前の態度変容を促すマーケティング施策や、AIを活用した業務効率化ツールの提供が含まれます。さらに、独自開発のマーケティングツール「Mygru」を用いて、行動データを基盤にした顧客理解を実現しています。
System Innovationでは、データを業務に組み込むための基盤構築を支援します。独自の「ADS(Adaptable Data System)」フレームワークを活用し、企業ごとに柔軟に適用可能な仕組みを提供。既存システムとの連携を強化し、データの即時性や変換・分析の効率化を実現しています。
リスクとしては以下が挙げられます。
- 利益のボラティリティ:大口顧客との長期契約が収益基盤を支えていますが、取引環境の変化によって利益が大きく変動する可能性があります。
- 人材依存度:精鋭人材を中心にサービスを展開しているため、人材確保と育成が事業の持続性に直結します。
- 技術進化リスク:生成AIやデータ基盤技術の進化スピードが速く、技術適応の遅れは競争力低下につながります。
- 情報セキュリティ:顧客の機密データを扱うため、セキュリティ事故の発生は信用失墜や損害につながる恐れがあります。
今までの業績
ギックスは2021年の売上高7億円から2025年には約23億円規模へと急成長を遂げています。特に2023年の売上16.8億円から2025年の23.0億円まで成長しており、データ分析需要の高まりが背景にあります。
一方で、利益面は安定していません。2023年に純利益2.4億円を計上した後、2024年は8,785万円、2025年には9,053万円の純損失となりました。これは、事業拡大のための投資や人材確保コスト、研究開発費用の増加が要因と考えられます。
また、配当政策としては2024年に1株あたり27円、2025年に53.5円と増配を実施しました。しかし、2025年は当期純損失を計上しているため、今後も同様の配当を維持できるかどうかは業績回復次第となります。株主総利回りは125.7%と市場平均を上回っており、株価は2023年の最高値3,330円から2025年には1,184円へと大幅に下落している点も特徴です。
キャッシュフローの推移を見ると、営業キャッシュフローはマイナス基調が続いており、2025年は▲3.2億円と赤字。投資やM&Aを積極化させていることもあり、財務キャッシュフローもマイナスとなり、現金残高は前年の17.7億円から11.8億円へ減少しました。
今後の業績
今後の成長戦略は、主に以下の3点に集約されます。
- 長期契約の獲得
大手企業との深い関係構築を進め、長期的なコンサルティング契約やシステム運用契約を増やす方針です。資本提携や共同プロジェクトを通じて取引範囲を拡大し、安定した収益基盤を築くことを目指しています。 - プロダクト領域の拡大
自社開発のツールやアルゴリズムを汎用化し、幅広い企業に提供する戦略です。特にマーケティングツール「Mygru」やAI見積りシステムなどを通じて契約件数を拡大することが見込まれます。販売パートナーとの連携や展示会出展による販路拡大も計画されています。 - 投資とM&Aの推進
2025年には株式会社メイズの株式取得を予定しており、ブランディング事業や関連領域への事業拡大を図ります。これにより、既存事業とのシナジーを生み出し、売上・利益の拡大を狙っています。
リスク管理面では、ガバナンス体制や情報セキュリティの強化を進め、内部管理を徹底する姿勢を示しています。また、人的リソース確保のために柔軟な働き方や教育制度を整備し、優秀な人材の確保を続けています。
投資家にとっての視点としては、短期的には利益赤字が続く可能性がある一方、中長期的にはデータ分析やAI活用市場の成長に乗って大きな収益機会を得られる点が魅力です。ただし、安定配当を前提に投資を考える場合、足元の収益変動が大きい点には注意が必要です。将来的に業績が安定すれば、配当再開や増配の可能性も十分にあると考えられます。
業種平均の比較分析
指標比較表
以下は、株式会社ギックス(2025年6月期)の主要な株式関連指標と、サービス業平均値との比較表です。数値は有価証券報告書および業種平均データをもとに作成しました。
| 指標 | ギックス(2025年6月期) | サービス業平均 | 差異(ギックス-平均) |
|---|---|---|---|
| 自己資本当期純利益率(ROE, %) | ―(当期純損失のため算出不可) | 7.34 | ― |
| 総資産経常利益率(%) | △4.3 | 0.89 | △5.19 |
| 売上高営業利益率(%) | ―(営業利益非開示、経常損失▲9,063万円) | 5.75 | ― |
| 自己資本比率(%) | 85.1 | 6.68 | +78.42 |
| 配当性向(%) | ―(当期純損失のため算出不可) | 41.33 | ― |
| 純資産配当率(%) | 2.9(推計値:1株配当53.5円/1株純資産318.16円) | 2.37 | +0.53 |
コメント・詳細分析
1. 自己資本当期純利益率(ROE)
ギックスは2025年6月期に純損失を計上しており、ROEの算出ができませんでした。業種平均の7.34%に対して明確に劣後していることは事実です。ROEは株主資本に対する利益の効率性を示す指標であり、投資家が最も重視する項目の一つです。直近年度でマイナスとなった背景には、積極的な投資や人材確保コストの増加があると考えられます。長期的な成長戦略を支える先行投資である可能性も高いため、単年での赤字を過度に悲観するのではなく、翌期以降の改善余地を注視することが重要です。
2. 総資産経常利益率
ギックスの総資産経常利益率は△4.3%と、サービス業平均の0.89%を5ポイント以上下回りました。総資産を使ってどれだけ利益を生み出しているかを測る指標ですが、現状では資産を活用しきれていない状況が浮き彫りです。資産効率の悪化は、今後の収益性改善に向けて大きな課題となります。とりわけ、開発投資やM&Aなどで資産が膨らんでいる中、収益化のスピードを高めることが求められます。
3. 売上高営業利益率
営業利益率は有価証券報告書に直接的な開示はなく、経常損失が計上されているため、実質的に平均値の5.75%を大きく下回っていると推測されます。営業利益率は企業の本業の稼ぐ力を示す指標であり、安定配当を狙う投資家にとっては特に重要です。赤字の背景には、プロダクト開発や人材育成への投資がある一方、短期的には収益性を押し下げる要因となっています。中期的に営業利益率を改善できるかが、投資妙味を大きく左右するでしょう。
4. 自己資本比率
ギックスの自己資本比率は85.1%と、サービス業平均の6.68%を大幅に上回っています。財務基盤は極めて健全で、倒産リスクが低い点は大きな安心材料です。一般的に40%以上であれば安全水準とされる中で、85%という水準はきわめて高く、外部借入に依存しない強固な資本構造を示しています。ただし、資本効率の面では課題があり、株主視点では「資本を眠らせている」状態とも捉えられます。今後は資本効率を改善する経営戦略の実行が期待されます。
5. 配当性向
当期純損失のため配当性向は算出できませんが、実際には1株53.5円の配当を実施しており、株主還元姿勢は強いと評価できます。過去には171.5%という高配当性向の実績もあり、利益よりも配当を優先する姿勢が見られます。これは株主にとって短期的には好材料ですが、企業成長のための内部留保が薄くなるリスクもあり、持続可能性という点で課題が残ります。
6. 純資産配当率
純資産配当率は推計で2.9%となり、サービス業平均の2.37%を上回っています。株主資本に対して実際にどの程度の配当が行われたかを示すこの指標は、株主還元姿勢を測る有効な物差しです。ROEや利益水準が低下する中でも配当を維持した点は、投資家への還元を重視する企業姿勢を示しています。ただし、今後も赤字が続く場合には、配当の持続性に不安が生じる可能性があるため、業績回復とバランスの取れた資本政策が鍵となります。
配当方針と今後の展望
現在の配当方針
株式会社ギックスは、株主への利益還元を経営の重要課題と位置づけています。その中核となるのが「安定配当」と「企業価値向上投資」の両立です。具体的には、2022年の上場時の売出価格1,070円の5%に相当する年間53.5円の普通配当を基準とし、これを継続的に実施する方針を示しています。
この53.5円は「固定額」として明示されており、短期的な業績変動に左右されず、株主に安定的なリターンを提供する設計です。また、年2回の配当を基本とし、中間配当(毎年12月31日基準日)と期末配当(毎年6月30日基準日)を行っています。配当の決定は取締役会の権限とされ、株主総会ではなく機動的に判断できる仕組みを採用しています。
最近の配当実績
2024年度(第12期)と2025年度(第13期)の配当状況を整理すると以下の通りです。
- 2024年9月10日効力発生日:1株当たり27.0円を支払済み
- 2025年3月28日効力発生日:1株当たり26.5円を支払済み
- 2025年9月9日効力発生日(予定):1株当たり27.0円を予定
特筆すべきは、筆頭株主である経営陣が中間および期末配当請求権を事前に放棄している点です。2025年3月期においては約1.8億円分の配当を放棄しており、その分が会社に留保される形となりました。これは経営陣が企業成長に必要な資金を確保しつつ、株主還元を両立させるための措置と考えられます。
配当関連指標
- 1株当たり配当金:年間53.5円を継続
- 配当性向:2025年度は当期純損失のため算出不可。ただし過去には171.5%(2024年度)と高水準を記録
- 純資産配当率(DPR):2.9%(推計値、53.5円÷1株当たり純資産318.16円)
業績が赤字でも一定額の配当を実施していることから、株主へのリターンを最優先に考える姿勢が読み取れます。一方で、内部留保や財務健全性の維持には課題も残ります。
今後の配当方針の予測
- 安定配当の継続
年間53.5円という「固定額配当」を維持する可能性が高いと考えられます。業績が赤字であっても、この額を基準とした配当は会社方針として揺るがない可能性が高く、長期投資家にとっては安心材料です。 - 業績連動の余地
現在は固定配当を優先していますが、将来的に黒字基調が定着すれば、追加的な株主還元(特別配当や自社株買い)を検討する可能性があります。M&Aや新規事業への投資が一巡すれば、余剰資金を株主に還元する流れになるでしょう。 - 配当持続性のリスク
赤字が続けば内部留保を取り崩す必要があり、配当の持続性に不安が生じる恐れがあります。特に、キャッシュフローのマイナスが長期化すると、配当維持が財務負担となりうるため、投資家は財務指標の推移を注視する必要があります。 - 経営陣の配当放棄の影響
経営陣が配当請求権を放棄する措置は、会社の資金繰りを守りつつ株主還元を優先する強い意思表示ですが、長期的にはイレギュラーな対応といえます。今後も同様の措置が繰り返されるかどうかは不透明であり、根本的には業績改善によって安定的な配当原資を確保することが不可欠です。
投資家への示唆
長期配当を目的とする投資家にとって、ギックスは「安定配当銘柄」としての魅力を備えています。ただし、それは業績との連動性が低いがゆえの両刃の剣です。利益が赤字でも一定額を維持する姿勢は心強い一方で、財務基盤を圧迫するリスクがあります。中長期的には、データ分析・AI市場の成長に乗り、業績が安定すれば、現在の固定配当が「増配」へ転じる可能性も秘めています。
長期配当投資評価
レーティング評価:
評価コメント
株式会社ギックスは「長期投資で長期配当を狙う」という観点で見た場合、中立的評価(星3つ)が妥当と考えられます。理由を以下に整理します。
まずポジティブな側面として、同社は年間53.5円の安定配当を継続する方針を明確に打ち出しており、2022年の上場以来、赤字決算下でもブレずに配当を実施してきました。このように「固定配当制」を採用している日本株はまだ少数派であり、株主にとってはキャッシュフローの見通しが立てやすく、FIREを目指す個人投資家にとって安心材料となります。また、自己資本比率が85%超と極めて高く、財務基盤が堅固であることから、倒産リスクが低い点も長期保有にはプラス評価です。
一方でネガティブな側面も無視できません。2025年6月期は約9,000万円の純損失を計上しており、営業利益率や総資産経常利益率などの収益性指標は業種平均を大きく下回っています。つまり、「配当は出しているが、稼ぐ力はまだ弱い」という構図です。日本株の中には、利益成長を伴いつつ配当性向40〜50%程度で着実に増配している企業(商社、製薬、通信、食品など)が多数存在します。それらと比べると、ギックスの配当は安定はしているが成長性に乏しい点が見劣りします。
さらに、赤字下でも固定配当を維持しているため、将来的にキャッシュフローが逼迫するリスクもあります。直近では経営陣が自ら配当請求権を放棄することで資金流出を抑える措置を取っていますが、これは一時的な対応にすぎず、恒常的に続けられる仕組みではありません。長期投資家にとっては「企業の稼ぐ力の回復」が最重要課題であり、これが実現できなければ配当の持続性に陰りが出る可能性があります。
総合すると、ギックスは「固定配当」という珍しい強みを持ちつつも、現状の収益力や成長性では日本株全体の中で突出した投資妙味を持つとは言い難い銘柄です。したがって、配当収入の安定性は評価できるが、長期的な増配余地や収益成長に課題があるため、中立評価(星3つ)としました。長期投資の選好対象としては「安定収入の一部を担う補完的銘柄」として位置付けるのが現実的でしょう。

